07 共に立つために


Side.Seto Kaiba

瀬人が冥界の広間に現れる。
その気配だけで空気が変わり、アテムの胸も一瞬にして現世の記憶に引き戻される。
「…海馬。」
懐かしさと熱がこみ上げ、アテムの声は僅かに揺れる。
だが、その隣に控えるセトが静かに言葉を差し込む。
「王、午後には儀式の続きがあり、民が待っております。」
アテムは思わず頷き、現実へと引き戻される。
瀬人はその光景を冷ややかに見やり、薄く笑む。
「随分と予定が詰まっているようだな。…自由に会話をする時間すら奪われているように見える。」
挑発だ。だが、アテムの腕には、セトが通した飾りがあり、心に残るのは毎朝の香りと声。
その、安らぎの記憶が、無意識にセトを肯定してしまう。
「海馬…違うんだ。これは必要な…。」
そして自ら説明を始めてしまう。その瞬間、主導権は既にセトの手にある。
セトは視線を瀬人に移し、冷ややかに告げる。
「現代の子。王は今、冥界の務めを果たしている。…あなたが与えた熱は確かに強かった。だが、日々を支えるのは、炎ではなく土台。」
アテムの胸に、否定できない感覚が広がる。
アテムにとって瀬人は特別であり、想いも残っている。だが、今、自分を守り支えているのはセトである。
網の目に絡め取られたアテムには、この矛盾に抗うほどの余白は、もう残されていない。
瀬人はその目を細める。
「なるほど。…古代の亡霊が、日常で王を縛ったか。」
状況を把握すると、低い声で呟き、次の手を探る。

アテムは元来、1人で全てを背負う主張の強い男である。
古代の亡霊が縛ると言うのなら、その拘束を解くまでだ。





Side.Seto

広間の空気が変わる。
アテムの現世の記憶を呼び起こす現代の子の気配。それは確かに王の胸を揺さぶるだろう。
だが、冥界はセトの領域だ。
王の隣に立つと、微細な仕草ひとつでアテムの注意を引き寄せる。
馴染ませてあるいつもの香や、声のトーンを変えて、些細な動作で「日常」のリズムを作る。
それが、セトの駆け引き。
瀬人は冷ややかに笑い、低い声で挑発した。
自由に会話をする時間すら奪われている。時間、それはセトの武器である。
確かに魅力的な男だ。出来過ぎた、現代の子。頭の良さに加え、それを可能にする情熱と突破力があり、直感力も強い。
アテムの心を奪ったはずのセトでさえ、瀬人の計算高さは容易に読めない。
瀬人の微かな目の光、肩の微妙な動き、それだけで次の手を打とうとしていることが分かる。
心の中で、セトは自分に言い聞かせる。
しかし、私は知っている。王は日常の安定に心を委ねやすい。長年の経験で、王は安全圏に触れると、最も無防備になるということを。
アテムがセトの飾りと香に意識を戻す。小さな頷き、無意識の動き。これこそが、勝利の証。
瀬人がどれだけ熱を持って迫っても、「今」ここでアテムの視線はセトに向いている。
瀬人が呟く。古代の亡霊が日常で王を縛る、と。
セトは、くすり、と微笑む。
流石は現代の子、その通りだ。私はこの日常で王を支配する。愛ではなく、信頼ではなく、日々の積み重ねで、揺るぎない居場所を作るのだ。
アテムの胸の奥で、日常の安心感が小さく波打つ。その脈動を感じ取りながら、セトはさらに優しく、しかし確実に支配を刻み込む。

今日もまた、王は私の手の中で目を細め、微笑む。
それはいずれ、現代の子がどれだけ呼びかけても、揺るがない証となるだろう。






冥界の夜。
アテムは、いつものようにセトによって積まれた仕事に追われていた。
「アテム、少し手を止めろ。」
背後から掛けられる声に振り返る。瀬人だった。
瀬人の声は低く、静かだが、内に力を秘めていた。手には、平たいタブレット状のものや箱などを持っている。
それらは、海馬コーポレーションの技術力を投入して開発された、冥界の業務効率を劇的に上げる機器だった。
と言っても難しいものではない。触れば自ずと使い方が分かるような設計になっているし、搭載されたAIは気を利かせてくれるように調整されている。
「いや…だが、執務が…。」
アテムは困ったように眉をひそめる。だが瀬人は笑みを浮かべた。
「問題ない。ここに座れ。」
瀬人は、執務机に広がる束を軽く整えると、AIにその処理を指示し、有無を言わせずアテムを隣に座らせた。
「いいか、お前は明らかに過労だ。」
「そんなことはない。気遣ってくれてるのは有難いが、俺は大丈夫だ。」
アテムは穏やかに礼を言うが、瀬人は微笑むでもなく、真剣な表情を崩すことはなかった。
「俺の目を誤魔化せると思うな。」
現代を生きる瀬人には、表情や現状などの状況証拠だけで充分だった。
奪われている圧倒的に足りない必要なもの。
『時間』
まずはそれを取り戻す。
「お前専用に開発した。これを導入しろ。」
宙にディスプレイを表示し、説明していく。
「Kaiba Smart Throne(KST)、お前の決定を支援するAIコンソールだ。儀式スケジュール、民意の解析、緊急時の最適選択肢を提示する。頭を悩ませたならこいつに処理させれば適した選択肢を弾き出す。」
要は、海馬印のAI。とアテムは理解した。
確かに隣の、瀬人の部屋は尋常ではない発展ぶりをしているが、ここは冥界である。
「俺の時代にそんなものは…。」
「怯むな。お前も少し前には現代人をしていただろう。」
「それを言われると、確かに返す言葉はないんだが…。」
「続けるぞ。」
及び腰のアテムを無視して、瀬人は続ける。
「Atlas Drones、軽輸送、臨時設営、医療サポートを行える。準備を自動で済ませ、お前の拘束時間を短縮する。」
瀬人は、箱からドローンを取り出した。光る供物トレイにしか見えない。
だが、必要な作業は全て任せられるらしい。
「Archive Beacon、古文書や石碑をデジタル化し、説明、提示する。特に市民向けに、儀礼の意味を、出向かずとも周知させることが出来る。これは設置済みだ。」
ディスプレイの中に、実際に設置された様子が映る。見た目はただの石版風のフレームだ。
画面が変わり、石版風のフレームだけになり、フレームの中に映像が映る。
「お前が好きそうなやつだ。」
「どう言う意味だ。」
「テレビジャックとか、よくやってただろ?」
「…まあいい、用途としては合っている。」
瀬人は何かを言い返そうとして、やめた。優先事項はアテムの拘束を解くことである。
「これ、設置したって言ったか?」
「安心しろ、効果を得られそうな場所を選んだ。」
「安心か?皆が驚く。」
「試しに他にもいくつかばら撒いてみたが、この世界の奴らは文明の発展を喜んでいる。」
ばら撒かれてしまっているのなら仕方がない。
相変わらずの行動力だ。
「流石は文明加速装置だぜ…。」
「褒め言葉として受け取っておこう。」
いつか世界海馬ランド計画の計画地として冥界が上がるのも近いだろう。
「まずは始めの2つを使え。意思決定に時間を取られない。ドローンはお前が現場に居なくともいいよう勝手に働く。」
「石版風のフレームは?」
「テクノロジーを公の場で使う時、その様子を流せ。冥界は発展していると見せつけろ。」

何故、急に冥界を近代化させたいのか。その意図は不明だ。
気は乗らないものの、使わなかったら使わなかったで面倒なことになりそうで、アテムはとりあえず何日か試してみた。
結果は、瀬人の言った通りになった。
海馬印のAIは、所要時間を短縮し、日常的に休息の時間をアテムに与えた。判断に悩まされる時間が激減したのだ。
ドローンはアテムの代わりに飛び回り、ダイレクトにアテムの時間を確保した。
瀬人の目論見が上手く嵌まったのだ。
技術は「時間と決断のための道具」となり、それらに悩まされなくなったアテムは、少しずつ「自己」に戻っていく。
セトに頼ることも減り、1人で考える時間も、考えるための頭の余力も増えた。だからこそ、募るものがあった。
「セト…。」
1人の部屋で呼ぶ声に、返事はない。
あの腕に抱かれたい、だけど距離を取りたい。本心はどちらなのか、アテム自身にも分からなかった。





何をするでもなく、瀬人と並んでいる。
それはアテムにとっては、優しい時間だった。
そういえば、以前はこんな時間を過ごしていた。甘やかされて、自由で。
瀬人の存在は、やることは、自然とアテムの意識をセトの縛る網から解放していく。
「順調か?」
「怖いぐらいにな。だが、何故…。俺はお前を…。」
裏切ってしまったのに。
「俺が簡単に何かを諦めるとでも?」
「まだ、戦うのか?」
「どうだろうな。」
瀬人とセトが自分を取り合って争う。
そんなことはもう、終わりにしたつもりだった。
「ゲームなら、相手になれるぜ?」
「そんな時間がどこにあった。」
アテムの目が揺れた。言われてみれば、なかったことに気付く。
好敵手すら、いつの間にか降りてしまっていた。
「仕事がお前の時間を縛るのなら、仕事を片付ければいい。自由がなさすぎる。」
「だが、セトはもっと自由がなかったんだろう?」
「確かにな。」
日の出も日の入りも休暇も関係なく、国の為に身を賭した日々。
希望の旗印として絶対的な象徴で在り続け、誰を前にしても抜くことの出来ない緊張感。その重圧に耐え切る責任感。
涙を流したのはただ1度。王墓で1人、祈りを口にした時だけだ。
激情を内に込め、ただ復興のためだけに冷徹に判断を下し、戦い続けた。
「だが、アレとお前をイコールで結ぶ必要があるのか?」
「それは…。」
アテムには答えられなかった。
「答えはノーだ。」
「何故そう言える。」
「アレが願ったのは、戦いに散ったお前の安息だからだ。」
アテムは息を呑んだ。
瀬人の指先がアテムの肩に触れる。触れるだけで、縛られていた時間と責務から解き放たれる感覚があった。
魂は受け継がれ、その手は安息を齎す。
瀬人と過ごす時は、何故か肩が凝らなかった。数少ない遠慮の要らない相手だ。
今では、対等で居てくれる、唯一の存在。
対等の。
今はゲームをすることも殆どない。それでもまた、好敵手になれるのだろうか。
「見ているがいい。今に、お前を自由にする。」
「…それは出来ない。俺には、すべき事がまだまだ残っている。だから、自由にはなれないんだ。」
「俺は王ではないが、民であるつもりもない。だが、自由にやっている。」
「王みたいなもんだぜ、お前は。」
たった1年で、遺跡、宇宙、街1つ丸ごと支配していた。
「ならばそれでも構わん。王であり、自由だ。そしてお前もだ、俺が逃がすのだからな。」
「俺が何から逃げるって言うんだ。」
「時が来ればいずれ分かる。」

急に冥界を近代化させたり、逃がすと言い出したり、相変わらず、瀬人の意図は分からなかった。
ただ、見つめる青い目は、セトと全く同じ色をしていた。






冥界の民は画期的な機器を使用するようになった。だが、それほど大きなものではない。それは、ある日急に広まった。
しかし秩序は相変わらず平和に保たれている。
いくらかの神官も、各々の執務室で、アテムと同じようなタブレットを使用し始めていた。だが、セトとは近しくない者達だけ。
その為、神殿側、特にセトの周囲が冥界全体のその変化を、異変と気付くのに僅かばかりの時間を要した。
その間に、冥界という環境は、瀬人によって大きく創り変えられていった。
瀬人がしたことといえば、いつも通りである。冥界であるなどといった、枠に縛られず、持てる技術や情報をとことん広めただけだ。
冥界の常識や仕組み、作業効率は変わり、世界は一変した。
冥界という世界規模の変革である。
アテムの言う、海馬印のAIは、アテムの能力を大幅に拡張し、セトが築いた「依存や縛り」の力を弱めた。
そして最終的には、 冥界の思想や構造までもを同時に変化させた。
セトの作った依存の網は徐々に薄れ、水平展開による支配はもはや意味を失っていた。
勿論セトは内心では激怒していたのだが、それを表面に出すことはなかった。
年月をかけて築いたアテムへの影響力のある世界が、現代技術で薄れたのだ。
冷静な策士としてのプライドについた傷が、静かな怒りを燃え上がらせた。
「自由時間が増えたようですね。良いことです。」
「ああ。」
確かにアテムは自由になった。だが、セトは油断をさせない。この自由の中で、いかに心理を揺さぶるか。
「自由であることと、心の自由は別です。」
そう囁くと、アテムは無意識に反応する。小さな瞳の揺らぎ。
じわじわと焦らす。恐怖と快感の微妙な交差。
少し近づき、少し離れる。呼吸を合わせる。
アテムが自分の手の内にあることを、気づかせないように、巧妙に。
掌握は緩急が肝心である。急がず、焦らず、じわじわと絡め取る。
「そうだな。しかし、海馬、あいつ、いつかはやると思っていたが、こんなに大規模なことをするとは。」
未来の権化であるあの男が冥界の環境に大人しく染まる筈がない、とアテムが苦笑する。
セトは一瞬、視線を鋭くしたが、その声は落ち着いている。
「そうですか。ですが、私が目を離している間に何が起こるか分かりません。お忘れなく。」
「悪いな、心配かけさせて。」
セトは一歩近づき、淡い微笑を浮かべた。
「悪戯は許されませんよ。」
「分かっているさ。」
アテムの表情は落ち着いていて、それが更にセトの怒りや焦燥を煽る。
アテムは、セトの、冥界の秩序を守ろうとする慎重さや、局面を注視する緊張を感じていた。
セトの怒り。それは、アテムには、深い愛情や責任感の表れとして、映っていたのだ。
瀬人の逆転を許す余地が生まれたことで、それを防ぐためにセトの、アテムの「日常」への介入は増えた。
しかしその頃には、アテムは増えたルーティンに呆れて笑う程度の余裕を取り戻していた。
外から包む。それは環境や相手に委ねて安定する外部依存のものだ。
瀬人は、アテムを外から包んだセトの網の目を、その更に外側から破壊した。巧妙に、静かに、確実に、最後は大胆に。

瀬人は、セトと戦うことならとっくに覚悟を決めているのだ。冥界という世界規模の変化すら小さなことだった。
それで何か手や口を出して来ようと技術力で押し返すのみである。
そしてその上でアテムの自由を見守る。
安全であることを確保しつつ、セトの策略が届かない範囲を作る。
直接干渉はせず、アテムが自ら選択する状況を整える。これが最も強い守り方である。
好敵手として瀬人はアテムを信じた。アテムには支配から抜け出し、自分で決める力がある、と。
目の前の景色は穏やかだが、背後には細やかな監視網がある。
だが、どんな策を巡らせても、アテムを危険に晒すことはさせない。
戦いの届かないこの静かな自由の中で、アテムにアテム自身を取り戻させる。






そんなある朝。
アテムは、目を覚ますと同時に気付いた。
頭が驚くほどクリアになっていたのだ。まるで長い眠りの底から、一気に浮上したように。胸の奥まで新しい風が吹き抜けていく。
セトが朝のルーティンにやって来る前に、アテムは立ち上がり、足を運んだ。ちょうど冥界に滞在していた瀬人の部屋へ。
「海馬。」
アテムの瞳には、依存や支配から生まれる安堵ではなく、真の安心と温かさが宿っていた。
だが同時に、心の奥で大きな動揺が揺れ動いている。
解放されたのだな。瀬人はその瞳を見て、心の内で静かにそう呟いた。
これでイーブン。
ほんの僅かに口元を緩める。強さと優しさを兼ねた笑みを、ただアテムにだけ向けて。
「お前の選択は、お前自身のものだ。もう、誰の手にも縛られていない。自由だ。」
瀬人の声は冷静で、それでいてどこまでも確信に満ちていた。
アテムは自然と頷き、心からの笑みを返す。
「ああ。」
セトの水平展開が、現代の力と瀬人の巧みな時間操作によって、完全に破壊された瞬間だった。
あの網は冥界という環境に最適化されていた。ならば、その環境を変えてしまえばいい。
瀬人は、セトの支配に沿わず、自分の得意とする環境へと書き換えたのだ。冥界を丸ごと。
アテムを閉じ込める檻は、もう機能しない。
環境の改変。数字と情報の掌握。それは瀬人が最も得意とする武器であり、必ず勝利をもたらすものだった。
そして今、アテムは再び、自らの意志で選ぶことができる。
瀬人を選ばせることも出来た。
だが、今このタイミングで瀬人がそれを迫ることはなかった。
「アテム。お前は自由になった。ここからは戦いだ。」
「俺が?」
「お前と、アレのな。」
セトと戦わなければならない。アテムが目を見開く。
そうだ。まだ、束縛から逃れたばかりで何も終わっていない。
「そうかもしれない。」
「クビにしてやったらどうだ。」
瀬人が薄く笑い、挑発するように横目で見る。
「まさか。いっそ、もう一度王位を押し付けるのも手だと俺は思っている。治めることならあいつの方がずっとしっかりやれる。」
セトに王をやらせる。
アテムにとって、それは逃げではなく現実的な選択肢の1つだった。
だが同時に、それを許すことは、自らが再び後退することでもある。
「能力としては、その可能性はある。奔走した10年分は評価に値する。愛国心もある…義務と言い張るだろうがな。」
「お前のお墨付きなら、有りだな。」
「いずれにせよ、アレを叩き潰してからだ。」
「何でもかんでもそんな戦い方するのはお前くらいだぜ?」
どのように決着をつければ良いのか。それはまだアテムにも分かっていない。
そもそも戦わなければならない義務感や使命感もない。
アテムは小さく息を吐いた。
セトと剣を交えるのか、言葉をぶつけるのか、それすらまだ定かではない。
だが1つだけ確かなことがある。
セトを拒絶するのではなく、受け入れるでもなく、真正面から向き合わなければならない。
このまま何事もなかったかのように以前のように戻れたら。そんな考えも浮かぶが、あの時セトの手を取ったのはアテム自身だ。
今の関係性を考えれば、そのままで良い筈もない。
だが、恨んでいる訳でも、怒っている訳でも、ましてや嫌いになった訳でもないのだ。
支配はもうない。ならばいっそこのままの関係でも良いのではないだろうか。
「現状維持など、考えてはおらんだろうな?」
図星を指され、アテムが目を逸らした。
「貴様…いい加減その性質は改めろ。戦う必要もないなどと言い出すのではないだろうな?」
「…言いたい。」
瀬人が大きな溜息を吐いた。以前なら価値観の違いで口論に発展していただろう。
「正直になったことは、一向に構わんがな。」
「考える時間は出来た。何とか考える。」
「考える、か。随分と悠長だな。」
瀬人の声には皮肉が混じっていたが、その眼差しは真剣だった。
「俺がお前に与えられる時間は、せいぜい僅かだ。アレは待たん。アレがこの環境を掌握するのにそう時間はかからん。」
この環境。瀬人が冥界を近代化した意図が、やっと分かった。精神的に「逃がす」ためだ。
「掌握の王…アレのやり口は巧妙だ。必ずお前を捕らえる。」
アテムは拳を握りしめる。
「分かってる。」
「ならば直ぐにやれ。アレを倒せ。」
「…お前たまにキツいぜ。」
その言葉に、瀬人は僅かに口元を緩めた。
「漸く理解したか。」
アテムは深く息を吸い込んだ。胸の奥の迷いが、少しずつ形を成していく。
「俺は…答えを見つける。必ず。」
帰り際、瀬人が新しい機器を差し出した。
「通信用の端末だが、こちらの新しいものを使え。以前のものは回収する。」
端末。アテムの目には、やたらめったら機能がついているスマホという認識だ。
「何が違うんだ?」
「これに掛けることができる。」
瀬人の手には、アテムのものと似たような端末があった。
「…現世に?」
「そうだ。」






暫くは、発展した冥界の日々を過ごしていた。
しかし、いつからか、この発展の前に瀬人が言った「逃がす」の意味が重くのしかかるようになった。
逃がされたら、「戦い」が始まった。

最初に来たのは、喪失感と混乱だった。
ずっと心地よい温水に浸かっていたのに、急に冷たい空気に晒されたような気分だった。
気まぐれに、瀬人は冥界を訪れる。それはアテムがセトを選んだ後も、ずっとそうだった。
カードの応酬をする程の時間や体力はなく、少し会話をする程度ではあったが、それでも、瀬人はアテムの前に姿を見せていた。
そして今も。
アテムが完全にプライベートで対等な関係を持つのは瀬人だけだ。更には、瀬人にとってアテムはずっと記憶の中で見てきた存在である。
そんな瀬人がアテムの変化に気が付かない筈がなかった。
「お前にしては、随分と苦戦しているようだな。」
「そうかもな。だが…よく分からないんだ、なぜ俺は、あれほど…。」
心のどこかで、セトに寄り掛かっていたのだろうか。
「それが支配と言うものだ。安心して縛られていただろう。違うか?」
瀬人の言葉は的確だ、まるで思考を読んだかのように、しかし事実のみを客観的に告げる。
「支配、縛る…。」
あの穏やかな日常は、そんなに強い言葉を使うほどのものだったのだろうか。だが、他に上手く表現出来ない。
「喪失感、混乱。そして自己への不信…驚きや恐怖を感じているのではないか?」
驚き、恐怖。言われてみれば、混乱を分解すればそれらが内包されているのが感じ取れる。
「何故それを?」
「心理学は比較的新しい分野だが、発展はしている。その程度は分かる。」
「なるほど。」
「近く、葛藤や痛みを感じる。離脱症状のようなものだ。」
「それは、何故起こる。」
「それが、アレの愛し方だからだ。お前に相応しいのは檻の中ではなく、外だ。」
愛し方。檻。
アテムには分からないことだらけだった。
自由時間は少なかった、だが強制されるようなことはなかった。
それらは全てセトによってコントロールされていたので当然なのだが、アテムの知るところではない。
ただ、全ては優しい時間だった、と思った。
しかし瀬人は檻だと言う。
「檻の中に居たとでも?」
「これほど適切な表現はない。だがその檻はお前を守っていた檻だ。守りがなくなれば外に恐怖を感じるのは…体感済みだろう。」
「…分からなくはない。」
マリクの人形と戦ったあの時の記憶が蘇る。檻は守りの意味も持つ。
「聞きたくもない予言を聞いた気分だ。未来予知でもしたのか?」
「オカルト趣味はない。その上、お前が千年パズルを所有する以上、予知は不可能。これはただの予告だ。」
「心の中で備えていても、無駄なんだろう?」
「無駄だ。」
これから起こること。備えても無駄な抵抗。
アテムは苦笑いを浮かべて背凭れに体を預けた。
「お前、本当に、俺に対して容赦がないぜ。」
「されたいのか?」
「いや。お前はそんなことはしない。」
いつもと変わらない態度に、アテムは心のどこかで安堵していた。
「予言などというものは、甘い希望を与えるためのものではない。事実を突きつける為のものだ。」
「そうだな。」
アテムは目を細めた。
胸の奥に重く沈む感覚を覚えながらも、それを拒絶するより、むしろ抱きしめるように受け止める。
「俺は、その檻を選んだのかもしれない。」
呟く声は、自分に問いかけるようでもあり、瀬人に答えを求めるようでもあった。
瀬人は目を伏せ、僅かに笑った。
「ならば、選んだ責任を負うことだ。その痛みからは逃げられん。…望むのであれば心の部屋を整えてやってもいいがな。」
「だから、お前はそんなことはしないぜ?」
瀬人はどちらかと言うと面倒見は良いが、そのやり方は『子を谷へ落とす』に近い。
「いつでも呼べ。代わりにはならんが見届けてやる。アレを倒す様をな。」
「それは頼もしい話だ。」
瀬人が帰って1人。
アテムは、静まり返った部屋で椅子に腰を下ろした。
「代わりにはならん…か。」
口の中で繰り返すと、その響きが胸の奥を突き、酷く現実的に感じられた。
セトと過ごした安定の記憶が、甘い痛みのように甦る。
あの温もりは、確かに檻であり、確かに安らぎだった。
今はもう分からない。
その代わりに、自由という不確かな広がりが目の前にある。
アテムは無意識に拳を握った。
「戦い…始まっているのか。」

次に押し寄せたのは、セトへの思いだった。
体は自由だ。檻も束縛もない。しかし心は、まだどこか揺れている。
自由とは、こんなに重いものだったのか。
ふと、セトの存在を思い出す。あの冷たい視線、甘く囁く声、そしてじわじわと絡め取られる感覚。
抵抗したいのに、身体の反応は正直で、混乱が加速する。
一歩踏み出すごとに、過去の依存と恐怖が蘇る。
「俺は…俺でいられているのか?」
問いかけるように空を見上げる。答えはまだない。
セトからは、日常の細やかな部分から愛されている。
それが支配なのかという疑問や、優しさも激しさもある愛を受けているにも関わらず、どこから来るのか分からない悲しみが胸に広がる。
幸福や安堵は本物だった。本当にこれが、支配だと言うのだろうか。
本当ならばセトに直接聞けたなら良かった。だが、そんなことが出来るはずがない。
胸に広がる悲しみは、同時に心を温める奇妙な感覚でもあった。
支配なのか、愛なのか、誰も答えてくれない問いが、静かに胸を押す。
セトの愛か、それとも自身の感情か。アテムは、自分の心を見つめる。
瀬人の存在が側にある時の安心感と、セトとの時間の温度差が、今更ながら鮮明に浮かび上がる。
支配。縛る。
「セト。お前は俺を…。」
「とても大切に思っておりますよ。こちらを。」
いつものように、セトが皿を差し出す。
いつもの、好きな果実の乗った皿。
いつも、変わらない。
支配だと言うのなら、これを断ち切らなければならない。
この、甘美なこの日常を。それを思うと心が痛い。
誰かに教えてもらいたいくらいだった。この幸福な場所が一体何だったのか。
心の中でどれだけ叫ぼうと、答える者は誰も居なかった。
アテムは皿に手を伸ばし、指先でそっと果実に触れる。
甘い香りが鼻をくすぐる。心が一瞬、ふわりと解けたように柔らかくなる。
これは支配か、それとも愛か。自問自答しても答えは出ない。
だが確かに言えることは、手に取った果実の温もりと、セトの視線の奥にある深い想いは、現実であり確かなものだということだった。
心の痛みと温かさが同時に押し寄せる。アテムはその矛盾に戸惑いながらも、少しずつ、自分なりの理解を積み重ねていった。

最後に残ったものは、呼吸の軽さや、世界の広がりだった。
そこまで来て漸く分かった。縛られていたのだと。
もう、自由である。
しかし、自由の喜びは、同時に、恐怖を引き連れてきた。
今まで、守られていた、日常。
瀬人が言う、支配や、檻。
「こういう、ことか。」
だが、その恐怖は他の誰でもないアテムの持つべきもの。アテムが背負うべき責任や選択肢。
セトによって守られ、持たずにいたそれらが、一気に戻って来ただけ。
眠れなかった。
渡された端末を手に取り、コールをしかけて、やめた。手の中で、ぐっと握りしめる。
これは自身の問題であり、誰かを巻き込むことではない。
だが、呼んだわけでもないのに、瀬人はアテムの目の前に現れた。いつもなら隣に作った瀬人の部屋か、王宮の外辺りに座標を固定したからと、まずそこへやって来る。
それが今は、アテムの目の前に直接だ。
「海馬。どうして?」
それに対して答えはない。
瀬人はアテムの表情を確認すると、微笑を浮かべた。
「アテム、デッキを組め。30分待ってやる。今なら時間はあるだろう。」
冥界は発展し、業務は効率化され、時間ならば確かにある。だからこそ、今、考え過ぎてこんなことになっている。
「悪いが今はそれどころじゃないんだ。それにもう夜も遅い。」
「戦え。お前にとって適している場所はそこだ。」
デュエルディスクを突き付けられる。
瀬人の言葉はいつも的確だ。
それが必要だと言うのなら。
好敵手としてアテムは瀬人を信じた。瀬人には支配を破壊し、自由へ導く力がある、と。
そっと、左腕の、セトに贈られた飾りを外した。その瞬間、喪失感と、心の軽さがせめぎ合う。
そして、左腕に、デュエルディスクを装着する。
「……。」
久しぶりのデュエルディスク。
久しぶりに目にするカード。
懐かしい自分のデッキ。
いつからから、止まっている時間。
アテムは暫くカードを眺めてから、呟いた。
「…このままで、いい。」
やり直す。始めから。
迷いを振り切る決意と共に、初めからやり直す覚悟が胸を満たす。
「いいだろう。行くぞ。」
人気のない大広間に2人の影が映る。
いつもここで戦っていた。
「先攻はどうする。」
以前は自然にどちらかが勝手に先攻を取っていた。
勝手が思い出せない。
「俺の先攻だ。」
黙って様子を見ていた瀬人が、先にカードをドローした。
挑発、ブラフ、読み合い。どれもこれもが懐かしかった。
久しぶりの戦いは、前回と同じ手が通用する訳もなく、罠を読みきれず、負けた。
だが、これで良かった。
「相変わらず罠カードの使い方は上手いな。」
「罠は?…まあいい、少しはマシな顔になったか。」
「酷い言いようだな。それで、何故分かったんだ、俺が呼ぼうとしたことが。」
アテムがじとりと瀬人を見た。理由を話せと含ませる。
「…握力や握り方。あの端末に、通常と異なる触れ方をすれば分かる機能を搭載しておいた。」
「海馬、お前な…。」
「呼べと言っておいた筈だ。」
相変わらずだ。変わらない。全くブレない奴だ。
自分はどうだろうか。
「俺は、変わってしまった。」
「腑抜けた好敵手など、俺が叩き直してやるまでだ。」
「腑抜けてたら、お前は相手にしないだろ。」
「そんな口を叩けるのなら、お前は変わっていない。」
2人の距離感は、以前と同じようでいて微妙に違う。互いに認め合い、しかし互いを試す。
まさに好敵手同士の駆け引きが、再び始まったのだった。
「そろそろアレの処分は考えたのか?」
「そんなことはしないさ。」
「俺なら迷わずクビだ。」
「迷えよ。能力を評価してたのはお前だぜ?」
信じていた。守られていたと思っていた。事実、守られていた。それが束縛であり支配だった。
しかし、檻の中で得ていた安心感や甘さも嘘ではなかった。
「アレを憎むことが出来ないのだろう。」
「だが、従い続けることもできない。」
あれは愛情ではなく、支配と従属だったのだろうか。しかし守られていたのも愛されていたのも事実。あれは一体何だったのだろう。
しかし瀬人は心を読んだように、実際に読んだ可能性はあるのだが、前に会った時と同じ事を言った。
「それが、アレの愛し方だ。」
「俺には難しい話だ。」
「納得しなくていい、理解しろ。出来ないのなら叩き潰せ。」
「だから、そんなことはしないぜ、俺は。ただ、少し悲しみはあるかもな。」
久しぶりに熱くなったからか、少し心が凪いでいる。
ゆっくり心の声に向き合うには良いかもしれない。
「ならば突き付けてやれ。遊戯ですら、今は1人で立っている。」
「相棒が…。」
1人で立つ。戦いの儀で、それぞれ1人と1人として向かい合った。それぞれの場で、立つために。
アテムは諦めたように、仄かに笑った。
「そうだな。分かった。明日の朝…。」
「今すぐやれ。」
「今すぐ、って。無茶ばかり言うな。流石に寝ている。」
「アレを突っぱねる決心は出来ているのか?」
「突っぱねは、しないが。心は決まっている。」
そう答えると、瀬人はにやりと笑った。
「出てきたらどうだ。古代の亡霊、そこに居るのだろう。」
瀬人が声を張れば、足音がして、セトが姿を現した。
いつもなら安らぎを覚える相手なのに、今は不思議な恐怖が胸を貫く。
セトの目には冷静さと余裕が宿り、同時に何か、圧倒的な支配力のようなものを感じさせた。包み込む優しさではなく、全てを掌握しているようなオーラ。立ち姿1つ取っても隙がなく、それでいて目が離せない。
いつもと違う。
これが、王として存在していた時の、今は見せない本来のセトの姿なのだろう。
アテムの心はざわめく。束縛と甘さと喪失感の狭間で、まだ揺れている。
これはただの戦いではない。心を取り戻す戦い、束縛を断ち切る為の戦いだ。
緊張が張りつめる中、アテムは息を整え、立ち上がる決意を固めた。
セトは、その戦いを受けて立つ、と態度で示している。
「現代の子は、声がよく通る…。」
「…セト。」
戦い。しかし、名を呼ぶ声には、痛みと哀惜が滲んだ。
「王、話ならば、内容を把握しています。今宵も遅い、ご無理はなさいませんよう。」
セトはアテムを突き放すように、まるでこの関係を終わらせるかのように、アテムに背を向け、大広間を出て行こうとする。
しかし瀬人がそれを許さなかった。
「また脅しか。」
脅し?
確かにセトがすぐ側に居なくなるのは痛手ではある。しかしそれは脅しにはならない。
「私は私の務めを果たすのみ。今までと、何も変わりませんよ。」
きっと、これからも頼れば力を貸してくれるだろう。
だが、『頼れば』とはどこまでを指すのか。
「俺は王だ。」
「はい、あなたは王です。」
「お前も、王だった。」
「そうですね。」
何を話せばいいのか分からない。
何を突き付けてやれと言うのだろうか。
瀬人は何も言わず、アテムをじっと見つめている。
「俺は、1人で立つ。」
「分かりました。」
今度こそ、セトは大広間を出て行こうとする。これで戦いは終わりだ。
終わった。
あまりにも、呆気ない。
これだけ大事になっていたのに。
アテムはぼんやりとセトの背中を見詰める。
すれ違いざま、瀬人とセトが目を合わせた。セトは後ろ姿なので表情は分からない、だが、瀬人はあまりにも、冷たい表情をしていた。
その視線のまま、今すぐ叩き潰せ。と目配せをして来る。戦いは終わったのに。
「セト。」
「何でしょうか?」
セトが振り返る。既に神官としての、いつもと変わらない冷静な表情に戻っていた。セトも、終わらせたつもりの筈だ。
これ以上、何を話せと言うのか。
瀬人を見れば、腕を組んで静観の構え。けしかけておいて後は勝手にしろなどと、随分な信頼のされ様だ。
セトのことは憎めない。しかし悲しみもある。だが、貰ったものは、確かに温かかった。
「俺は、お前のことを…。」
「信じて構いません。私は守る者です。」
セトはいつも守ってくれた。それは事実だ。
それに寄り掛かってしまったのは、セトの支配でもあり自分の弱さや甘さ。
「信じているさ。だから、共に、立とう。」
お互いに、きちんと1人で、そして共に並び立とう。だからもう、庇護は要らない。脅しも要らない。
一瞬、セトが目を見開いた。表情を崩す所など、初めて見た。
「伝えたかったのは、決別じゃない。それを、分かっていてほしい。」
暫しの沈黙が痛かった。
しかし、瀬人の高笑いが全てを吹き飛ばした。
「古代の亡霊、貴様の負けだ。」
「あなたも勝ててはいませんよ、現代の子。」
セトは、張り詰めていたものが切れたようだった。いつもの無機質な表情は、苦笑に変わった。
「そういう結論に行くか。まあ、それも王らしい。」
その言葉は、アテムには届かない独り言。瀬人だけが、聞いていた。
セトの諦観と納得の入り混じった空気を、瀬人は静かに、しかし満足げに受け止める。
そして、笑みを浮かべる。立ち尽くすセトの脇を通り抜け、アテムの元へ歩み寄ると、頭をぐちゃぐちゃに撫でた。
「何を、急に!」
思わず文句を言ったが、瀬人は柔らかく笑うだけだ。
「ふん、特に意味はない。」
勝利を確信した瀬人の目は、恐らく、健闘を称えている。
その仕草に、心がふわりと緩む。
今、ここにあるのは、互いに対等に立っているという事実だけだ。
それぞれが共に立っている、それならば、瀬人は常に対等に立っていた。初めから、ずっとだ。
瀬人の好敵手は長く絡め取られていた呪縛から解放された。
今なら奪える、とも考えたが、やはり一旦保留にすることにした。
アテムは自由に選択することが出来るようになったのだ。自由なタイミングで自由に選ぶだろう、と。
瀬人は行動で「愛は自由を与える」と証明した。
セトは「愛は守ることだった」と振り返る。
もう、縛るものは何もない。
アテムは2人を見比べ、初めて本当の選択ができるのだ。

夜が、明ける。
アテムは深呼吸を1つ。そして、心の中の重みをすっと手放すように目を閉じた。
昨夜までの葛藤、迷い、縛られていた感情。全てが静かに溶けていく。
セトは隣で、表情を殆ど変えずに立っている。冷静な視線の奥に、ほんの少しの安堵と、「やれやれ」という微かな感情が混ざる。アテムの選択を受け入れた後の静寂は、どこか柔らかい。
そして瀬人。長く見守ってきた瞳は優しく、けれど芯は揺るがない。アテムの頭にそっと手を置き、軽く撫でる。甘さだけではなく、信頼と理解の証。好敵手としての敬意が、そこにある。
「共に立つ。分かりました。共に、この世界の為に。」
セトの声は低く、静かだが重みを帯びている。アテムにとって、それは命令ではなく、約束でもなく、ただ並び立つための道標だった。
アテムは2人を見上げる。胸の奥で温かいものが広がり、過去の不安や恐れがふっと消えていく。もう、誰かに縛られることも、奪われることも恐れなくていい。
3人の間に、言葉は要らない。目と目が通じ合うだけで、全てが分かる。
長い旅路の果てに、再び並び立つために。
光が差し込む広間で、3つの魂が静かに、しかし確かに交わる。
互いの存在を認め、尊重し、愛し、歩み始める。

新たな日常が、ここから始まる。











この先、更に分岐あり

08a→『REAL』(海アテ)
08b→『DREAM』(セトアテ)
08c→『IDEAL』(2人×アテム)
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