08c IDEAL

*海アテ/セトアテ


「アテム。」
「王。」
アテムは日々、熱いアプローチに頭を悩まされていた。
愛されていることは素直に嬉しい。だが、あまりにも、あからさまで、毎回赤面させられて終わる。
瀬人は巧妙で正確にアテムの気を引く。そしていつもの冷静な鋭さを帯びた眼差しでアテムを見据える。
セトは隠さない激情と甘美さをぶつける。そして激しい情熱を滲ませ、言葉よりも熱に訴えかける視線を向ける。
それはまだマシだ。
取り合っていることが表面化したことで、取り合うことも表面化した。
「アテムはこれから俺と戦う時間だ。」
「いや、明日の打ち合わせを行う。」
こんなのもまだマシだ。
高度な罵倒センスでやり合われるともうついて行けない。
急に空気が一転して、バチバチやり始めるのだから。



人気のない広間。瀬人とセトは、いつものように言葉の剣を交えていた。
「貴様の言葉は、ただの亡者の泣き言だ。過去に縋り、王を鎖に繋ぐ。それが誇りか?」
瀬人は冷笑を浮かべる。
「子供の虚勢だな。王を導かぬ者ほど、口だけはよく動く。」
セトは揺るがぬ声音で切り返した。
「操るの間違いだろう。貴様に出来るのは、檻に閉じ込めることだけだ。」
「檻と呼ぶのなら呼べ。少なくとも、お前のような飢えた獣に王を差し出すよりは良い。」
「だが、牙を剥ける獣の方がまだ王を守れる。」
「奪うことしか知らぬお前が、守りを口にするか。」
瀬人の瞳が鋭く光る。
「奪うことを知らぬ貴様に、勝利が訪れることはない。」
セトは静かに笑った。
「勝利など瞬きに過ぎぬ。残るのは王を抱くこの魂。お前の残骸はそこで腐る。」
「腐るのは貴様の幻想だ。アテムは俺と共に立っている。その事実に震えていろ、亡霊。」
(うつつ)の子よ。お前の腕にあるのは蜃気楼。王の魂を映してなどいない。虚飾を抱いて眠るがいい。」
「俺の隣に立つアテムの笑顔は、本物だ。」
「ならば見せるがいい。幻でないと証明してみせろ。さもなくば、その笑みは私が奪おう。」
二人の声は氷刃と炎槍のように激突し、広間に響き渡る。
どちらも退かず、エスカレートするばかり。
そして互いを最大限に切り裂くための言葉を次々と繰り出す。
「笑わせるな、古代の亡霊。貴様は王の影を背負っただけの存在だ。自分の名で何を築いた。王の名がなければ、誰一人振り返りもしない哀れな男でしかない。」
瀬人の声は冷ややかに、しかし確かに突き刺さる。
「…ではお前はどうだ。お前は王に救われた子供にすぎない。王の手がなければ、お前はただの壊れた器だった。救われた恩を、力と錯覚しているだけの甘えた子だ。」
セトの瞳は揺るがず、深く抉るように言葉を放つ。
瀬人の眉が僅かに動いた。
お互いに、性質は知り尽くしている。最も相手に痛手を負わせる言葉選びは的確だ。
「俺は誰の背にも隠れない。救いを受けたのなら、その上で超える。」
「お前はただ、王の幻を追いかけ続ける子供だ。心のどこかで、未だに王に認められることを渇望している。その浅ましさを自覚していないだけだ。」
「俺は既に証明した。俺の隣にアテムはいる。貴様と違ってな。」
瀬人の声音は鋼のように硬く、しかし奥底に熱が滲む。
セトは微笑を浮かべる。
「王の心を覗けぬくせに何を誇る。仮に王がお前を愛しとして、それでも、魂の奥で響くのは私の名だ。それを打ち消すことは決して出来ない。」
「ならば黙って見ていろ。アテムが選んだ現実を、この俺が全て塗り替える。」
「塗り替えられるものならば。王の魂に刻まれたものは、誰にも潰せはしない。お前の刃では届かぬ場所だ。」
火花が散る。
互いに、相手の『存在の根拠』を突き崩そうとしながら、なおも一歩も退かない。
王を巡るその執着は、罵倒の応酬すらも凄絶な愛の証のように響いていた。
「貴様は王の威光を背負ってなお、玉座を守れなかった。その責任を認めぬまま、魂に縋り続ける。それが貴様の忠義か?」
瀬人が吐き捨てるように言い放つ。
セトの瞳が鋭く光る。
「玉座を失ったのは王だ。私が背負ったのは滅びの後始末。だが、お前はどうだ?現世で王を隣に置きながら、なお足りぬと飢えている。満たされぬ欲に苛まれる哀れな子よ。」
刺し方は秀逸。セトの情を混ぜない残酷な『優しさ』が、瀬人の理性を逆撫でする。
しかし、瀬人は嗤った。
「俺は常に未来を見ている。だが、貴様はどうだ。王に縋らねば己を証明できぬ哀れな従者に過ぎん。」
「ならば教えてやる。お前は従者にすら劣る。せめて王を導けたなら誇れたものを、ただ隣にいることを誇るとは。」
「貴様が導いたのは破滅だ。王を守れず、国を失い、己すら滅ぼした亡霊が偉そうに語るな。」
瀬人の声が鋭く跳ねた。
「破滅を恐れた者に未来は掴めぬ。私が滅んでもなお魂を繋いだのは王への忠義だ。だがお前はどうだ、王を自分の欲望の飾りにしているだけだ。」
「欲望を認めぬ愛など偽りだ。俺はアテムを飾りではなく、俺自身の証明として選んだ。貴様とは違う。」
瀬人は一歩踏み出す。
セトもまた一歩踏み出し、声を低く落とした。
「証明を叫ぶ者ほど、自信がないものだ。現代の子、お前は恐れているのだろう。王の心が、最後には私を選ぶことを。」
瀬人の目が細められる。氷のように冷たい笑み。
「…上等だ。俺はその恐れすら、力に変えてみせる。」
火花が弾け、空気が張り詰める。
まるで剣と剣がぶつかり合うような、鋭利な言葉の連打。
互いに一歩も退かぬまま、王を賭けた戦いは続いていく。
駆けつけた所でアテムは置き去りにされ、ついて行くことは出来ない。しかしそれもまだマシだった。
その後には、既に死んでいるのに心臓が幾つあっても足りない事態に発展する。



言葉の刃が空間を切り裂ききってしまうと、2人の距離は一瞬で冷たく、そして狭まる。
広間の石は彼らの足音を受け止め、静謐さを呑み込んだまま、次の瞬間に訪れる衝突を待っている。
セトの指先がゆっくりと剣の柄へ滑った。その動作はゆったりとしているが、内に凄まじい決意が収められている。
深い青い瞳が一瞬だけ細まり、石畳に映る影が鋭く伸びる。剣の鞘を引き抜く音が、乾いた金属音となって廊下に響いた。音は長くはないが、そこに在る意味は重い。
守るための準備、諦めないという誓い。
瀬人も一瞬でも遅れは見せない。その手は胸ポケットへ滑り込み、そこで触れたのは冷たい金属。
小さな音を立てて、銃を引き出す。動きは短く鋭い。銃はその掌に収まり、視線はセトの胸元へ、だがその先にある「王の側に立つ者」としての意志を正確に射抜く。目の奥の青が、一層冷える。
互いの呼吸だけがはっきりと聞こえる。石壁に跳ね返るように、2人の間に厚い空気が滞留する。観客は誰もいない。長年の因縁だけがそれを見下ろしていた。
セトは剣を正面に据え、刃先を僅かに瀬人の方へ向ける。ただし、その角度は「斬るため」ではなく「制するため」のものだ。刃の冷たさが光を拾い、その顔を硬く縁取る。
静かな声で言った。
「これ以上、王を惑わせるな。私は王を守る。」
その声には、守りたいという祈りと、壊れることへの恐怖が混ざっている。
瀬人は銃の先端を確かめるように軽く持ち替え、冷笑を浮かべる。
「守る?俺はアテムを奪うのに手加減しているだけだ。」
刃に届かぬ角度から挑発を返す。指先がトリガー付近を撫でる。その動きは冷徹で、計算の塊だ。だがその計算の裏には、抑えきれぬ熱もある。
駆けつけたアテムは血の気が引き、顔を引き攣らせた。
体の奥から、細い振動が伝わる。石の床を走るような足音ではなく、氾濫のような響きが自分の胸で聞こえる。
「海馬、セト、今度は一体何をっ…。」
アテムは両者の間に入り込む。体は震えていないが、心は激しく揺さぶられた。その視線が2人を往復する。
「アテム。今、決断させてやる。」
「王。その決断には私が手を貸しましょう。」
両隣からは、選べ、という空気が重くのしかかる。
瀬人が眉をひそめ、セトが目を細める。
「待て!とにかく武器を納めろ!」
こんなことがかなりの頻度で、目の前で繰り広げられるのだ。
本当に命の取り合いはしないだろうとは思ってはいたが、だからと言ってたまったものではない。
プレッシャーは増すばかりだ。






今日も瀬人とセトの間には、怒号と火花が飛び交う。冷たい視線が交差し、言葉の刃が互いを削る。
2人の身体が、ほんの僅かに前傾する。まるで長年の流れが、その瞬間だけに収束したかのように。
刃と銃口が、互いの目の高さで睨み合う。どちらも引かず、どちらも譲らず。
勝敗を言葉で決められないのなら、次は行動が語るだけのことだ。
その瞬間、剣先が一度だけ微かに震え、銃の先端にも緊張の光が走った。
刃が光を受けて小さく閃き、銃口の冷たさが暗闇を切り裂く。誰かが動き出す合図はまだない。
だがもう、言葉の戦いは終わった。次に放たれるのは、鉄と意志だ。
廊下の空気が、まるで針で突かれたように張り詰める。剣を向け、銃を手にした2人。決着は、ほんの一呼吸の後に始まる。
セトが先に狙いを読む。
「脳天か。少しは成長したな。」
「狙いを読んだ所で敵うとでも?」
「安全装置とやらを解除していないようだが?やはりお前はまだ甘い。」
「…武器など使わずとも充分に制することは可能だ。」
瀬人とセトの間で火花が散る。ざり、と一歩、踏み出す。
「もう、これ以上はやめるんだっ!」
アテムの声が、鋭く響いた。
その場の空気に、アテムの心臓は高鳴る。胸の奥に渦巻く焦燥。
これ以上こんなことはさせられない。止めずにいられる筈はなかった。
間に割って入り、両手を広げて制止する。
「…何だ、急に。」
瀬人は低く吐き捨てるように言ったが、腕はまだ下ろさない。
「止めていただかずとも結構です。私が決着をつけます。」
セトも視線は瀬人に向けたまま。
「俺には、2人とも必要なんだ!」
アテムは声を震わせ、薄っすら涙の膜の張った目で、交互に争う2人を捉える。
「どちらか一方なんて、選べない。選びたくないんだ!」
その瞬間、セトの手が僅かに止まった。瞳の奥には、抑えきれぬ激情と、そして迷いが光った。
瀬人もまた、アテムの強い意思に目を細める。少し苛立ちながらも、その瞳には柔らかさが混じる。
「…面倒な奴だな。」
瀬人は呆れたように小さく息をつく。だが距離を置き、鋭い視線を向けたまま、アテムの言葉を受け入れ、銃を下ろした。
セトもまた、静かに頷き、剣を鞘に収める。
「…分かりました。あなたがそう望むのなら、私はそれを尊重します。」
沈黙が流れる中、アテムは胸を撫で下ろした。まだ少し震えているが、その眼差しは揺るがない。
アテムの視界の片隅で、2人の存在が交錯する。
「もう、どっちも譲れないんだな。」
アテムは小さく呟いた。理屈では整理できない感情が溢れてくる。
両者の間で揺れる自分を、どう処理すればいいのか分からない。胸の奥で、甘さと焦燥、期待と恐怖が入り混じる。
瀬人の視線が冷たく、しかし確かに自分を求めていることを告げる。
「譲れると思っているのか?俺は戦うつもりだ。」
セトの熱い視線も伝わり、理性を押し流そうとする。
「現代の子が引かぬのなら、致し方ありません。」
どちらも自分を求める。その真剣さ、激しさに、アテムの胸は締め付けられた。
これ以上、まだ戦うつもりでいる。どちらを選んだ所で、戦いは続く。大切な2人が戦い続ける。もう耐えられなかった。
「俺には…俺には2人とも大切なんだ。だから、せめて争いはやめてくれ。でないと…俺は…。」
震えた、涙声のようなその言葉に、空気が一瞬止まった。

『泣かせてしまった。』

瀬人は無言で眉を上げ、唇を微かに緩めた。
セトも静かに息を整え、激情の炎を一瞬沈めた。
瀬人とセトの視線が交錯する。
互いに、そしてアテムに向けて、暗黙の了解が生まれた瞬間だった。
争うことをやめろとアテムが要求するのなら、その代わに新たな関係を構築するしかない。
この瞬間、3人の距離が決まった。アテムが望んだ通りの関係が、静かに、しかし確かに成立したのだった。
「分かった。お前がそう望むのなら。」
瀬人が無表情に、淡々と告げる。
「王、私もそれを受け入れましょう。」
セトも無表情でそれに続いた。
「望みを、受け入れる?」
アテムだけが付いていけていなかった。
「こういうことだ。」
唐突に、瀬人がアテムに口付けた。
唇の感触に、アテムの呼吸は止まりかけ、心臓は一層早く打つ。
「待て、セトが見て…俺は争いを…。」
「そして、こういうことです。」
セトも、アテムの唇に触れた。
その瞬間、アテムは思考を失いかけ、持ち直した意識で顔は驚愕に染まる。
「まさか…。」
唇を重ねたその感触、指先の軽い触れ合い、見詰める視線。
全てが、自分の望む形に「解決」されたことを、漸く理解した。
身体は震え、頭は真っ白になりつつも、心の奥では熱い幸福がじわりと広がっていく。
「いや、しかしそれは…。」
「なんだ、俺だけが良いのならそう言え。」
「いいえ、私だけ。ですよね、王。」
「そうではなくて…。」
瀬人の指先がアテムの首筋を伝う。耳朶を挟まれ、思わず吐息が漏れる。
セトは反対側の耳に噛み付いた。身体が強張る。
「だめ…やめ…。」
「お前の『だめ』は嘘だらけだ。」
指先、二の腕、脇の下、背骨のラインから襟足、瀬人は指先でアテムの敏感な所にピンポイントで触れて行く。
「嘘はいけませんよ。」
指先で顎を捉えられ、上を向かされる。
全く同じ色をした目がじっと見つめてくる。
「やっぱり、同じ色だ…。」
同じ色の、同じ温度の。
アテムの胸が熱く高鳴る。理性ではまだ処理しきれないけれど、身体は正直に応える。
混乱と躊躇の後、アテムの心に小さな確信が芽生える。
2人と、こうなるのかもしれない。
その瞬間、頭と心と体が一体になり、理解と受け入れの熱がじんわりと広がった。
胸の内で、アテムは漸く吐き出す。
「…分かった。俺は、2人の間にいる。」
その瞬間、2人の視線が一斉に自分に向けられる。
瀬人もセトも、悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。
早まったかもしれない。とアテムは思った。
「お、お手柔らかに、頼む…ぜ?」






沈黙の中、アテムはまだ胸の奥で熱を感じていた。交互に2人を見上げると、瀬人は淡々と、セトは少し微笑みながら、互いに目を交わす。
「…こうして、3人で…か。」
アテムの声に、少しの緊張が混じる。
「不安ならば、確かめるしかない。」
瀬人の声は低く、揺るぎない。指先がアテムの肩に触れると、身体が反応して小さく息を漏らす。
「あなたを独占するわけにいかないのならば。」
セトがアテムに近づき、唇に軽く触れる。体温が一瞬で伝わり、アテムの心臓が跳ねた。
2人の間に挟まれ、アテムは目を見開く。今まで味わったことのない、甘く熱い刺激が全身を包む。
「…待ってくれ、2人とも、いきなり…!」
驚きつつも、しかし抗えない。アテムが意識を集中すると、2人の手と唇が自分を確かめるように交わる。
瀬人の指先が肩から胸へ滑り、筋肉を軽くなぞりながら反応を探る。
アテムの呼吸は浅く早まり、胸の上下が小刻みに震える。
「心も体も、俺の手に応えている。」
耳元で囁かれる低い声に、アテムの意識は揺らぎ、思わず眉根を寄せた。
セトは腰周りに腕を絡め、体全体でアテムを包み込む。
「私だけの王でいてほしいところですが。」
唇が首筋に触れ、歯でそっと刺激を与える。アテムの背筋が跳ね、頭がぐらりと傾く。
瀬人は指を胸の中心へ移動させ、柔らかく反応を探る。
セトはそれを見逃さず、若茎を握り込み、揺り起こす。
2人の攻めが絡み合い、アテムの体は宙に浮いたような錯覚に陥る。
「あっ……待っ……。」
アテムの声が漏れ、身体は2人の齎す感覚に素直に反応する。
瀬人は耳元で囁き、軽く舐め、熱を送る。
「安心して委ねていい。俺を信じろ。」
理知的な優しさに、アテムは小さく頷き、全身を預ける。
一方、セトは荒々しくも包み込む力でアテムを抑えつける。
「迷う必要はありません。私の全てを受け入れるのです。」
アテムは意識の奥底で、心地よい熱に身を委ねる。2人に抱かれ、甘く淫らな時間が静かに、しかし確実に始まった。
指の感触と熱、唇と指先が弄る。アテムの意識は蕩け、自然と声が漏れる。
「あ…んっ……ん…。」
瀬人の手の微細な動きと、セトの苛烈な愛撫の差が、アテムの体を震わせる。
吐息が絡まり、全身の感覚はすぐに限界を迎えそうになる。しかし2人はそれを許さない。
「や…あ、ぁっ…うぅ……。」
背中から肩へ、腰から胸へ、全身が2人に支配され、意識は背徳的で甘美な混乱に染まる。
アテムは2人の間で息を詰めながらも、セトに教え込まれたことは体に自然に染み出していた。指先の小さな動き、腰の微妙な反応、呼吸の速まり。全てが、今この瞬間に繋がっている。
瀬人の目が鋭く光る。
「…随分と手慣れているな。」
低く、苛立ちを帯びた声。アテムの動きひとつひとつを逃さず観察する。
アテムは息を震わせ、思わず小さく身を竦めた。
「そ、んなことは…。」
だが、体は自然に反応し、瀬人の手が肩に触れただけで熱が走る。
横でセトが微笑む。
「現代の子が、愉快な反応を見せる。」
アテムを自分の方向に少し引き寄せ、指先で小さな刺激を与える。
瀬人の視線が険しくなる。
セトの指が、アテムの胸を軽く撫で、唇が耳元に触れる。
「…俺の前で、そのようなことを…俺を刻む。忘れられないようにな。」
嫉妬と独占欲が入り混じり、腕に力が入る。
低く響く声と指先の熱に、アテムの体が小さく震える。息が詰まりそうになり、思わず唇が薄く開く。心の奥底まで、瀬人の熱に侵食されていく感覚。
背後から、セトの腰が押し付けられ、唇が首筋を這うように滑る。
「王、あなたは…私だけを考えていても良いのですよ。」
セトの囁きは甘く、しかし穏やかさも帯びている。
柔らかいが力強い圧と唇の熱さに、アテムの体は自然と反応する。瀬人の指の痕跡が、セトの支配力で塗り潰される。
「セト…。」
瀬人はその言葉に息を詰め、胸の奥で燃え上がる熱を抑え込む。
「…アテム。」
瀬人はアテムを強く抱き寄せ、腕で包み込んだ。
アテムは戸惑いながらも、体の奥で熱を感じ、どこか嬉しそうに身を委ねる。
2人の手が同時にアテムに触れる。肩、胸、腰、腿。触れるたびに甘く熱い感覚が全身に走る。
「……んっ、あっ……。」
アテムの小さな声に、瀬人は唇を首筋に滑らせる。
セトは耳元で囁き、噛み付くように触れながら、跳ねる腰を抑えつけ、アテムの昂りを弄ぶ。
アテムはそれらに自然に体が反応し、前後に揺れる。
「私に対して…反応が早い。」
瀬人の腕がアテムの背を支え、指先で胸に触れる。
「俺に対して敏感に反応している。」
その声に、セトが鼻で笑いながらアテムの肩を軽く噛む。
「ふふ、まだまだ甘いですね。」
「甘いのは貴様だ。アテムのことを把握していないようだな。」
互いにアテムを巡る心理戦も同時に続く。
瀬人は自分の独占欲を押し殺し、あえてセトの手が触れる場所を見つめ、嫉妬を燃料にアテムへ仕掛ける。
セトは余裕の笑みを浮かべ、瀬人の苛立ちを煽るように、アテムの欲を更に露わにする。
「…俺のものだ。」
瀬人の低い囁きに、アテムは思わずぴくりと体が跳ねた。
セトが挑発するように微笑む。
「王を巡る戦いは、まだ終わらないようですね。」
セトの声がさらに脳内に響き、全身が熱に溶けていく。
アテムはその中心で身体も心も震え、息を荒げる。
2人の指先、手のひら、唇が交錯し、微細な感覚の応酬が続く。
アテムは甘美な混乱の中で、自分の体が2人に暴かれていくのを心地良く感じていた。
指先の痺れ、唇の熱さ、囁きの低音。全てが交錯し、心の奥まで痕跡を刻まれていく。
瀬人が窪みに指を滑らせ、ゆっくりと指先を沈めていく。
「あっ…だめ…っ…。」
身体が震え、声にならない声が連続する。
「アテム、またそれか。」
「嘘は通用しませんよ。」
既に瀬人が擬似的な抽送を始めている箇所へ、セトの指も侵入を果たした。
「やっ…そん、な。」
混ざり合う感触、交わる呼吸。3人の距離は一気に縮まり、アテムの中で理性と快楽がせめぎ合う。
快感と愛情が全身に押し寄せ、抵抗する理性すら消え失せる。
甘く、濃密で、そして苛烈な戦い。アテムはどちらに身を委ねるか選べず、ただ熱の渦に飲まれていた。
「先は若者に譲りましょう。」
「ほう。ならば全てを奪っておこう。」
瀬人がアテムを横たえ、その上に覆い被さる。
指で触れてみれば、アテムの其処は、すっかりぐずぐずに蕩けていた。
「アテム。」
アテムが瀬人を見上げた。甘く口付け、ゆっくり挿入を開始する。決して激しくはない。だが、動きの一つ一つがアテムに甘い声を上げさせる。
浅く、時に深く。
「はっ…かい、ば……ぁっ……。」
閉じ込められた世界で、感じるのは互いの熱や息遣い。アテムが手を伸ばし、瀬人に腕を絡める。
「そうだ、アテム。お前はもう逃げられない。」
耳に落ちる声は甘く、支配を宣告する。アテムはそれに熱い吐息を零し、安堵したように目を閉じた。
甘く優しく抱かれ、安心に堕ちる。
なるほど。とセトはその様子を眺めていた。アテムを理解し把握していたと思っていたが、未知の領域を覗いたようだった。
「しっかり掴まっていろ。」
アテムの肩を掴んで、徐々に激しさも交えていく。
セックスは緩急も重要な要素。様子を確認しつつ、少し物足りないくらいをキープして、更に求めさせる。
腰の使い方、肩を掴む強さ、囁く言葉、口付けるタイミング。全てをアテム好みにチューニングして、心を満たす。
最奥まで当たれば、アテムはふるふると身を震わせた。
「かいば…っ、全部、触れ、てる…。」
所謂『ぴったり』というものは幻想。どこまで気分を昂らせることが出来るかが鍵。
心が満ちて、全ての意識が瀬人に集中すればそれが可能となる。
「アテム、そうだ。俺を刻め。」
「あぁっ、も……ん、んんっ…!」
アテムが達すると、瀬人はそれを褒めるように口付けた。目には安心と信頼が映っている。
「現代の子も、中々。」
セトは後ろからアテムを抱き締めると、そのまま体を持ち上げ、自身の上に腰を落とした。
「ひぁっ…っ!」
「まだ、足りないでしょう。」
正面から瀬人に見られながら、セトに抱かれている。アテムは全身が熱く灯るような心地だった。
「や、だめ…セト…。」
「ご自身をご覧ください。嘘は通用しないと申し上げましたよ。」
指先で反応を始めている昂りを撫でられると、この状況に感じ入る自分を否応なく思い知らされる。
セトは首筋に噛みつき、掴んだ腰を揺さぶる。
アテムは突かれるままにびくびくと身体を震わせ、快楽に堕ちていく。
何も考えられず、見られていることも忘れ、声を上げた。
理性は残っているのかいないのか、アテムが瀬人の腹に手を伸ばす。
瀬人は一度瞬き、アテムの肩越しに嗤うセトをひと睨みした。しかし、アテムにこんな素養があったのか、と理解を深める。
セトが掴んでいた腰を離すと、アテムは吸い寄せられるように身体を前に倒し、躊躇いなく瀬人の雄に口付けた。
互いに攻め合い、呼吸を合わせ、体の反応を読む。
スタイルは正反対だ。瀬人は緻密で優雅、セトは大胆で苛烈。
瀬人の指先は、まるでチェスの駒を動かすかのように、緻密にアテムの反応を探る。一つ一つの触れ方、体勢の変化まで逃さず読み取り、最小限の力で最大限の快感を演出する。
「……んっ、あっ、海馬……。」
セトはその隙を突き、より大胆にアテムを押し広げる。穏やかな表情に反して、秘めた黒さと激しさが同時に噴き出す。一度掴んだアテムを離す気はなく、その体温と力で完全に支配してしまおうとする。
「セト……そこ、は……。」
だが、同時に与えられる快感はどちらも同じくらい強烈で、アテムの意識を混乱させる。
そのどちらもが、アテムの意志によって受け入れられていた。
声が混ざり合い、互いの欲望と独占欲がぶつかり合う。
瀬人は嫉妬と愛情で握る手に僅か力を込め、セトは余裕と快楽でアテムを揺さぶる。
「あぁ、も……んっ。」
後ろからはセトに貫かれ、前では瀬人がアテムを口内に収めてしまっている。
体中の感覚が交錯し、快感が連鎖して溢れ出す。
胸が締め付けられ、腹の奥が熱く疼き、全身が震える。声にならない声が次々と漏れ、身体の奥が限界を告げる。
「はぁっ…あっ、……や…っ…。」
快感が脳まで駆け上がり、アテムの意識が完全に2人に支配される。
瀬人の手と唇、セトの腰と唇の痕跡が全身に刻まれ、残るのは熱と甘美な快感だけ。
アテムは心の奥から決めた。
「俺、は…これ…を、…選ぶ…んっ…。」
瀬人は微笑みを押し殺し、じゅぷじゅぷと音を立てて鼓膜までを犯す。
セトは腰と唇で全身を支配しながら、冷静な眼差しでアテムの耳元に吐息を吹きかけた。
胸の上下、腰の揺れ、指先の感覚。全てが限界まで高められ、快感と安心が同時に体を貫き、ゾクゾク背中を震わせる。
「あっ…もぅ……ぁっ…。」
唇が触れ、呼吸が混ざり合い、アテムの体が小刻みに震える。
異なる2つの快感は交錯し、アテムの全神経を支配する。全身が熱に包まれ、意識は溶けるように蕩けた。
自由に選び、自らの意思で2人に触れられている幸福が、体の隅々まで染み渡る。
心も体も、快感と愛情で満たされ、2人との繋がりを深く実感していた。
「……あぁっ……も…だめ…!」
アテムは両手で2人を引き寄せるも、逆にその間で身を震わせ、甘く蕩けた。
「試した結果は、良さそうだな。」
「問題なく、続けられそうです。」
やがて体が震えを収め、アテムは抱かれながら深く息を吐いた。
夜が更けるほどに、3人の間には甘美な火花が絶え間なく散り、心理戦と身体の応酬は頂点に達する。
アテムの身体は2人の腕に挟まれ、意識は甘美な混乱に溺れたまま、夜の深淵に沈み込んだ。
最後の瞬間まで、互いの独占欲と欲望、そして信頼が入り混じった戦いは続き、甘く苛烈な夜の余韻が残るのだった。
2人の攻めに心も身体も溺れながら、アテムは漸く自由を実感していた。

アテムは2人の腕に包まれたまま、まだ熱を帯びた体をゆっくりと落ち着かせていた。
瀬人の指先が背中をなぞり、セトの手が腰を抱き締める。
その間に静かな呼吸だけが響き、火照った体を互いに温め合うようだった。
「…もう、これで…?」
アテムが掠れた小さな声で尋ねる。
2人の間で揺れる視線を受け、瀬人は微かに笑みを押し殺して答える。
「…お前が望むのなら、もう俺は何も言わん。」
その言葉に、セトも静かに頷く。
「王、あなたは私のものです。そして…もう一方も。」
セトの声は穏やかだが、真意の深さは揺るがない。
アテムは息を整えながら、それらの意思を全身で感じ取っていた。
「分かった…俺には、2人とも必要なんだ。」
胸の奥に熱く広がる想いを、自分の言葉に乗せる。
「こうしていれば、争いも、俺の迷いもない…。」
瀬人がアテムの肩に手を回し、セトも穏やかに手を重ねる。
距離は縮まり、互いの存在を確かめ合うように静かに重なる。
「…俺の全てを、委ねる。」
アテムが言葉にすると、小さく微笑み、そして唇を近づける。
2つの温もりが同時に重なり、アテムの頬を優しく撫でる。
「永遠に、私たちはあなたと共に。」
セトの声も静かに重なり、3人の心は1つになったことを確かに告げる。



朝の光が、窓から差し込む。
アテムは瀬人の腕の中で目を覚まし、まだ熱を帯びた体の感覚をぼんやりと感じる。
指先には昨夜の余韻が微かに残り、肩や胸に触れる瀬人の重みが安心感と幸福をもたらす。
「起きたか。」
瀬人の低い声が耳元に届き、アテムは小さく微笑む。
「おはよう、海馬。」
視線を反対へ向けると、セトが隣で静かに見つめているのが目に入る。
「おはようございます、王。」
昨日の激烈な夜が嘘のように、そこには柔らかな空気が漂う。
セトは穏やかな微笑を浮かべ、アテムの手をそっと握る。
「昨夜は、喜んでいただけたようで。」
「…そう…だな。」
アテムは顔を赤くしながら答える。
瀬人は両手でアテムを抱き寄せ、頭を撫でた。
「アテム、これからはあれがスタンダードだ。」
「ん…ああ、はは…覚悟しとくぜ。」
アテムの言葉に、セトは微かに笑い、瀬人も口元に笑みを乗せる。
昨日のバチバチは嘘のように、会話はゆったりしている。時折互いを誂うような笑い声も響く。
「現代の子、昨夜は少々手加減を?」
「…古代の亡霊が…要らぬことを教えたな?」
「王のことを思えば、仕方がないでしょう。」
アテムは2人のやり取りを見て、微笑ましくも心が温かくなった。
小さな日常の中で、昨夜の熱も、互いの独占欲も、全てを安心して抱えていられる。
それぞれの位置に落ち着き、穏やかな時間を噛みしめる。
「これで、共に過ごせる。」
アテムは胸の奥で、昨日までの全ての葛藤と甘さを抱き締めながら、静かに呟いた。
朝の光の中、3人はただ互いの存在を感じ、余韻に浸りながらも、新しい一日を穏やかに迎えたのだった。
火照った体も心も、完全に安心と甘美な信頼に包まれ、アテムは初めて深く息を吐いた。





新しい関係は、ここから始まる。
互いの存在を認め、求め合い、揺るぎないバランスで紡がれる日常。
まだ形にならない約束の上に積まれていくであろう、甘く、官能的な世界。
これから、3人で描くもの『IDEAL』
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