女神の褒賞05

秋祭り


秋。
全国各地に漏れず、童実野町でも祭が催される。
海馬コーポレーションは地元企業として協賛する。
そろそろ童実野町が海馬コーポレーションの城下町のようなものなのではあるが、誰も何も言わない。それが一番丸く収まり上手く事が運び参加者も満足するからだ。
警備部門は慌ただしくなるシーズンでもあった。
「兄様、本当に学校優先でいいの?警備部門の統括なら平気だよ。」
モクバの学校の文化祭と童実野町の祭は日程が被っていた。
バトルシティなどのイベントでは主催側かつ運営委員長と言う名目でモクバが手を貸していた部分もある。上から指示を出せばスムーズに事は運ぶが、いつまでもそんなことでは困るのだ。
事業を増やし、会社を育て、その過程でモクバもいつかは瀬人の代役として飛び回ることも増えるのだから。
「警備部門にやらせる。ここも専門にさせて1年経つ。イベントもこなしてきた。問題は自己解決させる。」
「でも事件が起きたら?」
「どうにもならない場合にだけイベント部門から人を遣れるように組ませてある。」
「なるほどね。」
「それだけではない。」
「何か手を打ってあるの?」
瀬人が凶悪な顔をする。
「俺のスケジュールに、休暇と書いてやったわ。」
ハハハハハハ!と久しぶりに瀬人の高笑いが響く。冥界以来久しぶりに聞いたな、とアテムはぼんやり眺めていた。
しかし様子が変わったのは瀬人だけではない。モクバもかなり悪い表情になる。
「うわ、それはすごいプレッシャー。えげつないことするね、兄様。俺も休暇って書いてやろう。」
普段は雰囲気が似ているとは感じないが、楽しそうな悪人面はしっかり兄弟だった。
そんな所は似なくていいのに。心底思った。



「アテム。祭の日は何するんだ?」
「特に何もないぜ。」
街に出ると祭の話をよく耳にするし、ポスターも見かける。
それでちょっと見に行ってみようか、とも思ってたのだが、どんなものか分からないので遊戯に声をかけようかなんて考えていた所だった。
「なら、折角だから兄様と行ってきたら?」
「海馬と?でも休みだって言っていなかったか?」
「だからだよ。休みなんてとったら何かの研究始めちゃうに決まってるし、デートでもしてきたらいいじゃないか。」
このマセガキ、と思ったが、そういえばモクバは元からマセいたのだったと思い出す。
共に歩くとしたら、タッグを組んだあのバトルシティ以来か。
好敵手と肩を並べて歩く。
「俺たちが並んで歩いてもデートにはならないだろ。」
「へっ?何言ってんだ?デートにしかならないけど。」
モクバの素っ頓狂な声が上がる。
兄の気持ちもアテムの気持ちも正しく察しているモクバにとっては、心の底からの何言ってんだ、だった。
一方のアテムの心の中もわけが分からずパニックだった。
デートというのは遊戯と杏子、城之内なら舞だ。パートナーではないのにデートだなんて言えないし誘えない。
アテムにトドメを刺すのは実は親切だと思っていたモクバなのだった。



「どうかしたの?」
どうやって部屋に帰り着いたかは覚えてないが、杏子の声で我に返る。
そうか、こういう時こそガールズトーク。困って杏子に電話したのか。
「モクバが、俺に海馬を誘ってデートに行けって言うんだ。別に俺達はその、付き合っているとかそういう訳ではないし、デートなんておかしいだろ?」
「モクバくんが。そう…。」
杏子の女の勘は、モクバが味方であるという計算結果を導き出した。
そして推しの為である、協力も惜しまない。
「いい、シンプルに考えるのよ。まず、お祭りに行くことは別にいいんでしょ?」
「ああ、見てみたいとは思ってた。」
「ここからが重要よ。本当は直接会って聞きたいんだけど仕方ないか。そこに海馬くん居ないわよね?」
「居ないぜ。昨日、どこか出張に行ったから帰ってくるのは今日の夜以降だ。」
杏子が深呼吸をする。
「海馬くんが、モクバくん以外の他の人とお祭り行ったらどう思う?」
杏子、またそんなこと言ってんのか。と思った。
それはだめだ、とも思った。
祭は特別な誰か、友人やパートナーと、楽しむものらしい。
アテムの沈黙に杏子が畳み掛ける。
「それがヒントであり答えなのよ。」
「楽しめるだろうか。」
「海馬くんならあなたを楽しませてくれるわ。」
「あいつはそれで楽しいのか?」
「これは私の想像なんだけど、海馬くんは自分が楽しむことより誰かを楽しませることに幸せを感じるタイプだと思うの。海馬ランドがそうじゃない。気を遣われるくらいならお祭りに行きたいって甘えられる方がずっと喜ぶわ。」
ああ、スパダリ属性。とか聞こえたが、アテムは聞かなかったことにした。
「前に、隣に立つのは俺だけであってほしい、と思ったんだ。」
「あなたたちはずっとそうよね。変わってないわよ、ずっと。」
「変わってない?前は悩まなかったぜ。」
「それが乙女子よ。」
「杏子。」
堂々と言い切る杏子はやはりカッコよかった。
流されているアテムはもちろんそのことに気付いていない。

翌日午前、瀬人が帰宅した。大学ついでにアメリカ支社を巡回して帰ってきたら半日予定がズレたようだ。
「おかえり。」
「ただいま。」
杏子に貰った勇気を奮い立たせる。
「海馬。」
「どうした?」
ジャケットを脱ぎながら振り返る。表情は穏やかで、やはりアテムに優しい。
「俺、祭りに行きたいんだ。」
「祭か。」
「お前と。」
瀬人が、笑ったような気がした。
「そうか。」
「そうだ。」
「オトモダチとは行かなくていいのか?祭は3日間ある、どの日に行きたい。」
ディスプレイを開いてそれぞれの日程と催し物に目を通していく。
屋台、神輿や山車、なんだか分からないがそれらは毎日あるらしい。
最終日だけ終了時間が早いが、代わりに花火が上がる。
「この花火って、実はソリッドビジョンだったりするのか?」
「これは通常の花火で職人の手仕事だ。」
「最終日がいい。全部を楽しみたい。」
「では、そうしよう。」
モクバ、杏子、俺はデートの約束を取り付けたぞ。と謎の達成感がじわりと湧く。
後日、いつもの仲間たちからも誘って貰ったのだが、残念ながら日程が被ってしまったので断りを入れた。





そして祭当日。
朝からモクバがやって来て何かを渡された。
「アテムー!これ、俺からプレゼントだぜぃ。こないだ杏子と選んだんだ。」
「これは?」
「浴衣だよ。祭といえば、花火といえば、デートといえば浴衣だ。」
これで海馬くんをメロメロにしちゃいなさい。聞こえるはずのない杏子の声が聞こえた気がした。

メイド達にぎゅうぎゅう締められ、大変な目に遭ったが浴衣を着ることは出来た。こちらは問題ないだろう。
しかし、履物は足を踏み出すごとに飛ばしてしまいそうで心配な造りをしている。気付けば裸足、なんてことないだろうな。
「海馬、準備出来たぜ?」
「開いている、中で待っていろ。」
瀬人の部屋へ入ると奥から物音がする。絶賛支度中か。浴衣ってのは着るの大変だからな、ともう既に着てしまったアテムは高みの見物気分である。
念の為、帯が崩れないように浅く腰掛けて待つ。
「待たせたな。」
「行こうぜ。」
お互いに沈黙。
アテムの浴衣は白に花の柄。立体的な帯。
瀬人の浴衣はシンプルな深い紺で分かりやすい柄や苦しそうな帯はない。
「なんでお前そんな浴衣なんだ?」
「浴衣をリクエストしたのはお前だろう。男物などこんなものだぞ。」
「俺もそっちがいい。」
「可愛らしいが?」
「かわっ…そんなこと…」
「よく似合っているではないか。」
可愛いだの似合うと言われ、悪い気がしなかった。ただ、顔が熱い。
顔を背けて立ち上がる。
「そう、か?なら、行こうぜ。」
「アテム、一度ここに座れ。」
「まだ何かあるのか?」
「足だ。鼻緒で痛める前に1枚貼っておこう。」
慣れない内は大抵が怪我をする。と手ずから親指と人差し指の間に柔らかいテープが貼られた。
こんなこと、誰かにさせそうなのにわざわざ。
茶色の髪が目の前で揺れ、どこかむず痒い。
瀬人はアテムに優しい。最近はこんなのばっかりだ。
顔を上げた青い目が見つめてくる。
「地図は見たのだろう。どこから攻略したい。」
「ゲームじゃないんだぜ。」
「全部楽しむと言っていたではないか、ではなんだ?」
デートだ、とは言えなかった。のたが、玄関でバッタリ会ったモクバがやはり追い打ちの一撃。
「兄様、アテム、デート楽しんできてね。じゃ、俺は学校だから。」
「あ、ああ。」
反論しようにも杏子との会話が反論させてくれない。
別に瀬人がどう思っていようと関係ない筈なのだが、何故か隣を振り向けない。
「行くぞ。」
瀬人がアテムの手を取って車へ向かう。
「お前、デートでいいのかよ。」
「大いに結構。」
楽しそうな声だ。スパダリってのはすごいなとよく分かっていない感心をする。
乗り込んだ車は指定したスタート地点へと走り出した。



モクバのせいで半ばヤケになっているアテムである。
屋台で変わった食べ物を見つけては食べた。そしてゲームを見つければこれはもう得意分野、完全攻略に走った。
そうしている内にいつしか気分も落ち着き、いつの間にかかなり満喫していた。
「お前輪投げと射的が上手いって、海馬、お前射的はいいとして輪投げはないぜ。あれは反則だ。」
アテムがケラケラ笑う。
「あの手の取扱いには慣れているからな。」
海馬コーポレーションの前身は軍需産業。デモンストレーション用にと本当は武器全般取り扱えるのだが、勿論そんなことは言わない。
「そういうもんか?」
「そういうものだ。」
なお、瀬人は余りにもラフな佇まい、その狙撃スタイルと完璧な腕前から、無課金兄さんなどと場をざわつかせたりしていた。勿論それは本人の耳にしかと聴こえており、隠し撮りされたものが(気付いていたので隠れてはいないのだが)拡散されるのもすぐだろう、などと考えていた。
アテムは金魚すくいに才能を発揮した。いつ破れるとも分からないヒリついた緊張感が良かったらしい。掬って掬って掬って、育てるのはやっぱりいいや、とリリースしてきたところだ。
「次はカキ氷か、何味にするか悩むな。」
「ラムネを飲んだばかりだろう。」
「それもそうだな。カキ氷は次のカキ氷屋にするか。」
「カキ氷なら、屋台ではないがこの店がいいだろう。そこで足も休ませればいい。」
「そうだな、花火までまだ時間もあるし。そうするぜ。」
慣れない履物で結構歩き回って足も少し疲れている。
理由はそれだけではないのだが。人工香料を嫌う瀬人にとって、カキ氷は香り、色、味のトリプルアタック。絶対に食べさせられるから、それならば厳選されたフレッシュな素材を使って作られたものが良いと言った事情もあった。過剰な香料は、もはや食べ物の臭いではない。
店にたどり着くと結構並んでいたのたが、いつの間にか予約を入れていたようでアテムはそのまま席に案内される。
全て攻略する、というアテム。ルートにはカキ氷。その対策のために予約を入れてあったのだがこれもまた特に言う程のことでもない。
注文したカキ氷が運ばれ、黄色い果実ごと掬って口に入れてみる。
果実はトロリとして甘い。
「マンゴー、めっちゃ旨いぜ。」
「ココナッツと同じくトロピカルフルーツだからな、好きそうだとは思っていた。」
「ほんとよく知ってるな。俺のこと。」
「それなりに、な。」
「そっちは何味なんだ?」
「きっと気に入る。」
「これは?」
差し出されたカキ氷に、何の躊躇いもなくスプーンを入れる。味見をして、アテムが衝撃に顔を上げた。目はキラキラ輝いている。どうやらお気に召したらしい。
「ライチ。これもまた南国の果物だ。」

カキ氷に舌鼓を打ち、足を回復させた後は、後半戦もかなり屋台を荒らして楽しんだ。
アテムのその様子は子どもと大差ない。
「花火には観覧席を用意してある。よく見える。」
「そうなのか、さすがスパダリだぜ。」
「ほう。」
瀬人が面白そうな顔をする。
ヤバい、こいつは意味を知っている。
「あ、えーと、忘れてくれ。」
「今更だ。俺がそんな残念な頭をしていると思うか?」
「女の沽券に関わることなんだ。」
「そうか。だが、覚えておこう。」
忘れてくれと言ったのに。
瀬人はアテムの言葉を忘れない。
前にも同じようなことがあった気がする。
ココナッツウォーターの話をした時だ。確かに部屋にあったもののほうが屋台で売ってたココナッツより美味しい。



散々遊び回って、戦利品と言う名の景品の入った大きな袋を手に歩いていたら背中に違和感があった。
「海馬、背中を見てくれないか?さっきから帯が揺れるんだ。」
「ああ、解けかけていているな。」
直してやるから、と隅の方へ連れて行かれた。
「右手でここを押さえて、左手でこちらを摘め。」
言われるままに押さえたり、離したり。その内に緩くなっていたのがキュッと引かれ、後ろで直されていくのがわかる。苦しくはない。朝はあんなに思い切り締められたのに。
「浴衣って大変なんだな。」
「さすがにあれだけ動けば仕方あるまい。こんなこともあるかと結び方はいくつか頭に入れてある。」
「器用な奴だぜ。」
「お前は俺を何だと思っているんだ。」
「…器用?」
「何だそれは、そのままではないか。」
見えないが、楽しそうに笑っているのだろう。
出来たぞ、と写真を取って見せられた。
「朝と違う形になってる。」
「帯とはそういうものだ。この形ならば凭れて座っても問題ない。」
観覧席へ向かうか、と置いてあった袋を瀬人が拾い上げる。
少し遠くから聞き慣れた声が聞こえた。
「おい!てめぇはまた、アテムに何してる!」
「城之内くん?」
「俺が何をしたと言うんだ?」
相変わらずこの2人は、というかまず城之内は喧嘩腰で、受け答えする方はいちいち態度が悪いのだから始末に負えない。
「こっ、こんなとこで手ぇ出そうとしてたじゃねーかよ!」
「貴様の目は節穴か。」
「何だと!?アテム、こっちだ。」
癖のように、城之内はアテムの手首を引き、その細い手首にギクリとした。
遊戯が慌てて引っ剥がす。
「もう!いきなりアテムに何するのさ。」
城之内には妹が居た筈だ。女と分かればこれ以上の手出しはしないだろう。と、瀬人はその様子を静かに眺めていた。
救出されたアテムに視線を向ける。
「じきに時間だ。行くぞ。」
「ああ。城之内くん、俺は何もされてないから心配なんかいらないぜ。」
いつものパターンでうっかりやらかしたのを何とかしてくれただけで。
説明する程の暇はくれなさそうなので、またな、と手を降って瀬人の後を追いかけた。
辺りは暗い。目立つから追いかける分には良いが、こちらは小さいのでうっかり埋もれると進めなくなるのだ。
「海馬。」
「アテム?」
苦労しているアテムに苦笑し、瀬人がその手を掴んだ。
「助かったぜ。」
「そのまま掴まっていろ。」
手を繋いで歩いている。人混みなのに進むのがずっと楽だ。
自分よりずっと高い背丈、広い背中、合わせられる歩幅。守られる、というのは、こういう感じなのだろうか。
だが、これではまるで、本当にデートではないか。
こんなことを考えているのはきっと自分だけだろう。
そっと瀬人の表情を見遣る。楽しそうではあるが、それ以上の何かを読み取ることは出来なかった。

無事に観覧席へ着いてスマホをチェックすると、案の定、先ほどのことでメッセージが来ていた。皆で疑っているのだろうか、グループの方だ。
帯を直してもらっただけだ、と書いて送る。
本当か?と本田からも。
本当だ。とさっきの写真を貰って添付した。
全員の既読がつくと、浴衣可愛い!着てくれてありがとう。それにしても帯まで直せるなんて流石スパダリね、と杏子から個人メッセージ。遊戯が目にする所で他の男を褒めるのは憚られたのだろう。
海馬に褒められた。と送ると、意味深なスタンプで返された。どうしたものかと思っていると、始まるぞ、と声がかかる。
悪いが皆、話は今度。
花火は想像していたよりずっと大きく、光、音、振動、それら全てが全身に響いてくるようだ。
一緒に来てよかった。そう思った。
打ち上げられる花火を眺めながら、不思議とすぐ隣にある体温が心地よいと感じる。
空を見上げながら再び繋がれた手は、屋敷に帰るまで繋がれたままだった。
大きな手、自分とは違った少し硬い、男の手だった。





秋の祭から日を置かず、童実野町へ繰り出したアテムは取材と称して囲まれていた。
お名前は?
ご出身は?
海馬社長とはどこで?
お付き合いはいつから?
矢継ぎ早に質問が飛んできて、最後の質問に絶句する。
これは、杏子が陥ったあの状況では。
どう切り抜けようかと思案するも打開策は浮かばない。イメージを守りつつ、嘘は吐かず、説明して信用されるとは思えない。この現代では言葉は切り取られ、いいように解釈されるのは知っている。何と答えても無駄だろう。
生涯の好敵手、そんなことを言ってもきっと無駄だ。古代語で誤魔化そうか、しかしそれも名案とは思えない。海馬瀬人は嘘をつかない。だから自分も嘘をつけない。
「ええっと。その…。」
「その子に何か?」
窮地に陥ったアテムを救い、その場を黙らせ、記者を蹴散らしたのは、通りかかったモクバだった。
フン、と鼻で笑うところなんて、似なくてよかったのに残念だ。
「助かったぜ。」
「いいって。」
そう言ってモクバはどこかに電話をかけた。
「磯野か?警備部門に連絡してアテムの警護はどうなってるのか確認しろ。」
「警護ってどういうことだ。そんなこと、大丈夫だぜ俺は。」
「多分そういう指示は出てる筈だ。本来なら接触する前に追い払うものをこんなに後手に回って。悪かったな。」
「そうなのか?」
いつの間にそんな要人扱いされていたのだろう、気づかなかった。
嫌な予感をさせながら検索する。
海馬瀬人、祭。
出てきたのは標的を狙うスナイパーな海馬瀬人ばかり。こんな所でも無駄にイケメンである。#無課金兄さん、って何だろう。
問題がありそうなものは何も出なくてホッとするが、同時に複雑な気持ちになった。
覗き込んだモクバがにこりと笑う。
「それなら普通に検索しても出ないぜ。兄様だけが出るようにって圧力かけといたから安心して。」
どこに安心する要素がある。
言いかけて、やめた。
モクバだ。この手の話では散々追い打ちをかけられトドメを刺されてきた。今度はどんな爆弾発言をされるか分からない。
「噂になりたかったならそうするけど、兄様もアテムが望むならOKしてくれると思うし。」
「ちょっと待ってくれ、そんな噂を公表許可するってどういう…。」
「へえ、デートしたのにまだ分からないのか。警備の配置も済んだみたいだし、用があるから俺は行くな。じゃあ、後でなー!」
話は終わっていない、まだ分からないってなんのことだよ。
爆弾は落ちなかったが、代わりに意味深な言葉を残してモクバは行ってしまった。

秋は、深まるばかりだった。


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