ある日。
扉が2度叩かれた。
「失礼します。」
セトだった。
「帰れ。」
セトが来た時点で、瀬人は嫌な予感しかしない。
「出産祝いです。」
「何度目だ。ソティスはもう歩いている。」
「成長は祝うべきことです。」
「祝いの期間が長すぎる。」
差し出されたのは、小さな硝子瓶だった。淡い琥珀色。やはり嫌な予感しかしない。
「…何だこれは。」
「改良版です。」
「何のだ。」
「以前のものより持続性と幸福感を上昇させました。」
「そんなことは聞いていない。」
アテムが横から覗き込む。
「甘いのか?」
「飲む前提で聞くな。」
セトは静かに答えた。
「今回は果実系です。」
「改良するな。」
だがアテムはもう瓶を見ている。目が駄目だった。完全に興味を持っていた。
「瀬人。」
「駄目だ。」
「まだ飲んでいない。」
「顔で分かる。」
「少しだけだ。」
「その“少し”が危険だ。」
アテムは少し考えた。
「だが、前回は問題なかった。」
「問題はなかったのではない。対処しているだけだろう。」
セトが静かに補足する。
「安全性は向上しております。」
「必要ない。」
「前回は瀬人殿による成分分析という問題が出ました。問題は対処するものです。」
「……。」
対処するな、とは言えなかった。
その晩。瀬人は瓶を回収した。したのだが。
「…アテム。」
「何だ。」
「瓶はどこだ。」
「さあな。」
「飲んだのか。何故だ。」
「甘かった。」
「そういう問題ではない。」
アテムの頬が少し赤い。目も潤んでいる。瀬人は天を仰いだ。
「古代の亡霊が…!」
「改良は成功のようですね。」と聞こえるようだった。
その夜。冥界は静かだった。ソティスは乳母へ預けられた。そしてアテムは妙に素直だった。
「瀬人。」
「…何だ。」
「今日は、沢山触れてほしい。」
完全に薬が効いている。だがアテム自身も嬉しそうなので厄介だった。
翌朝。瀬人は精神的に疲れていた。アテムは幸せそうだった。セトは満足そうだった。最高だったが、最悪だった。
それから数週間後。
瀬人はカレンダーを見ていた。正確には、アテムの周期記録である。瀬人は、異様に几帳面だった。
「……。」
沈黙。
「アテム。」
「何だ。」
「少し来い。」
アテムは不思議そうに近付く。
「どうした。」
「月のものは。」
またも沈黙があった。
「あ。」
瀬人の眉間に皺が寄る。アテムは数秒考えた。
「…来ていないな。」
そう、素直に言った。
「何故忘れる。ルナ◯ナを使っていただろう。」
「忙しかったんだ。」
「お前は毎回それだな。」
瀬人は立ち上がり、机の引き出しを開けた。大量購入されたドゥー◯ストが詰め込まれていた。
「それ、まだ持っていたのか。」
「備えだ。」
「用意が良いな。」
「お前が忘れるだけだ。」
暫くして。
やはり沈黙があった。
アテムが検査薬を見ている。瀬人も隣で見ていた。
視線の先には、二本線があった。
「……。」
「……。」
アテムが先に口を開いた。
「出来ているな。」
「出来ている。」
「瀬人。」
「何だ。」
「2人目だ。」
瀬人は長く息を吐いた。そして静かにアテムの額へ触れる。
「…体調は。」
「今のところ平気だ。」
「無理はするな。」
「うん。」
その時。扉の向こうから静かな声がした。
「失礼します。」
セトだった。
「おめでとうございます。」
「何故分かった。」
「経験です。予測より早期でしたが。」
「貴様は、本当に、帰れ。」
しかし、セトは帰らないで続けるのだった。
「なお、育児体制は既に増強済みです。」
「既に?」
「2人目想定で準備しておりました。」
アテムは少し笑った。
「セトは頼りになるな。」
しかし瀬人は思っていた。一番頼ってはいけない方向で頼りになる、と。
第二子妊娠発覚直後。アテムは、割と余裕だった。
「既に経験しているからな。」などと言っていた。頼もしく、強かった。そしてかなり楽観的だった。
「前回も何とかなった。」そのようなことも言っていた。
「その“何とかなった”の裏で誰が走り回ったと思っている。」
「お前だ。」
「分かっているのなら警戒しろ。」
だが、初期は実際、比較的元気だった。食欲もある。ソティスも抱ける。公務も普通に行く。余裕も余裕だった。
「今回は、楽だ。」
「油断するな。」
「前回より余裕がある。」
「油断するなと言っている。」
セトが横から静かに言う。
「経産婦は初期余裕を見せる傾向があります。」
「分析をするな。」
「後半で崩れる場合も。」
「不吉な予測を言うな。」
そして数ヶ月後。
「瀬人。」
「何だ。」
「腰が痛い。」
「来たな。」
意味が分からないくらいとにかく理不尽に辛い時期が始まった。
腹が大きくなる。重い。眠い。息苦しい。情緒も不安定。そして、ソティスは元気でついていけない。
「何故、こんなに動けるんだ…。」
アテムが床へ沈むが、ソティスは走っている。
瀬人は慣れた手付きでソティスを抱き上げた。
「今日は俺が見る。」
「助かる…。」
やはり瀬人は、動きに無駄がなかった。
抱っこ、食事管理、睡眠管理、水分管理、温度調整、夜泣き対応、情緒ケア。全てが早かった。アテムに最適化された結果だった。
「少し横になれ。」
「だが公務が。」
「休め。」
「まだ動ける。」
「動けると動いていいは違う。」
アテムは不満そうだったが、寝台に押し込んだ数分後には眠っていた。
そして瀬人は、今回は更に先回りをしていた。
「休ませる。産休だ。」
冥界の会議室でそう言った時、官僚達は静かに頷いた。こちらも、もう慣れていた。
そして、実際、制度は既に改定済みだったのだ。先回りは功を奏した。
「王の負担軽減を最優先とします。」
セトが淡々と言った。
「何故こんなに整っているんだ。」
アテムが驚く。
「前回の反省を反映しました。」
セトが答える。
それはもう、恐ろしい精度で改善されていた。産前、産休、産後、全てに合わせて既に制度が整備されていた。
在宅裁可、補佐官増員、長時間会議禁止、緊急案件のみ直通、育児室、休憩義務。完璧である。
「…セト、やたら手際が良いな。」
「経験がありますので。」
「何の。」
「国家運営の。」
「…それと出産と何の関係が…?」
しかし、アテムは少し感動していた。
「働きやすそうだ…。」
「働くなと言っているだろう。産休だ。」
瀬人が即座に言った。
そして後期。
やはり本格的にきつくなるのだった。
「瀬人。」
「何だ。」
「何故こんなに苦しいんだ。」
「だから言っただろう。」
「前回より重い気がする。」
「個人差がある。」
夜、足が攣る。眠れない。情緒ももっと乱れた。
「…俺は変になっていないか。」
弱気な声だった。初期の余裕は影も形もなかった。
瀬人は即座に否定する。
「なっていない。」
「だが、すぐ泣きそうになる。」
「正常だ。泣け。」
「苛立つ。」
「正常だ。苛立て。」
「何もしていないのに不安だ。」
「それも正常だ。来い。」
アテムは少し沈黙した後、小さく言う。
「お前、慣れたな。」
瀬人は静かに答える。
「既に経験している。」
その時、扉が2度叩かれた。
セトだった。
資料を持って現れた。
「第二子以降の育児負担分散についての資料です。」
「帰れ。」
「兄弟児の情緒形成において…。」
「帰れ。」
「なお、今期の瀬人殿の父親適性評価ですが…。」
「今すぐ帰れ。」
セトは資料を置いて、静かに去った。アテムは少し笑った。
「…だが、お前は本当に当たりの男だな。」
瀬人は一瞬黙った。そして低く言う。
「今更か。」
その夜。ソティスは瀬人に抱き付きながら寝た。アテムはその隣で疲れ切って眠った。瀬人だけは暫く起きていた。静かに、2人分の毛布を掛け直してから、眠りについた。
臨月。
アテムはもう限界だった。
「重い…。」
基本的に第一声がそれだった。
腹は大きい。腰は痛い。眠れない。ソティスは元気。情緒は不安定。しかも今回は妙に腹が張る気がした。
「前回より大きくないか?」
アテムが真顔で言う。
瀬人は少し沈黙した。実は同じことを思っていた。だが医務官達は、「個人差です」と言っていた。
セトが静かに補足した。
「栄養状態が良いのでは?」
「誰のせいだと思っている。」
「瀬人殿の管理能力かと。」
「関係ない。」
とはいえ、瀬人の支援は完璧だった。
歩行補助、睡眠管理、栄養管理、ソティスの対応、情緒ケア、公務制限。全部やったし、やらされた。
勿論、セトもしっかり働いたし、働かされた。
それでも、瀬人は複雑そうな顔をした。
そしてある夜。瀬人がぽつりと言った。
「…現世で産むか?」
アテムが瞬く。
「現世?」
「無痛分娩がある。」
アテムは少し考えた。
「痛くないのか。」
「軽減されると言われている。」
「なるほど。」
しかし、数秒後、アテムは言う。
「いや、前回も普通に産めた。」
またも、2人目の余裕だった。
「普通ではなかった。」
「何とかなった。」
「お前はその評価を改めろ。」
アテムはその点においては妙に自信があった。激闘の上に勝利したのだから当然でもあった。
しかも、あの日の記憶は薄れていた。
「今回は慣れている。」
「その慢心が危険だ。」
顔を出したセトが静かに口を挟む。
「なお、2人目は進行が早い場合もあります。」
「脅すな。」
「一般論です。」
そして。数日後の夜中。
「…瀬人。」
声が違った。
瀬人は即座に起き上がった。
「来たか。」
アテムが腹を押さえている。顔色が悪かった。
「痛い。」
「分かっている。」
アテムは即座に医務室に運ばれた。ベテラン助産婦チームは待機済みだった。
「頑張りましょうね。」
「うん…。」
瀬人は覚えている、ここからが長いのだと。
そして案の定。
「まだですね。」
助産婦がきっぱり言った。
アテムは寝台で瀬人の手を握り締めた。
「まだか…。」
「耐えろ。」
「痛い。」
「知っている。」
1時間。2時間。3時間。まだ待たされる。
「瀬人。」
「何だ。」
「無痛分娩にすれば良かった。」
「だから言っただろう。」
助産婦達が少し笑う。
「今更言っても遅いですよ。移動は危険です。」
「くっ…。」
波が来る度にアテムが瀬人を掴み、瀬人の手首にはまた跡が増えていた。
「今度も倒れるなよ…。」
「倒れん。」
「本当か…?た◯ごクラブには…。」
「またそれか。倒れる理由がない。」
瀬人への助産婦達の評価は、やはり今回も当たりの男だった。
そして、いよいよ始まった。
「王、息を合わせて!」
「う、うん…!」
アテムは必死に耐え、怒り、叫んだ。叫ぶと良いと学んでいた。そしてその間、瀬人はずっと腕を握られていた。
「頭が見えましたよ!」
長い時間の格闘の末、やがて産声が上がった。
「…っ、は…。」
アテムが崩れ落ちそうになるのを、瀬人は支えた。
「男の子です!」
2人が安堵しかけた、その瞬間だった。
「…あれ?」
助産婦の声に、瀬人が顔を上げる。
「まだいますね。」
沈黙。
「…何?」
アテムが真顔になった。
助産婦が爽やかに言った。
「もう1人います。」
部屋が止まった。
「…………は?」
「双子か。」
「双子ですね。」
助産婦が言った。
セトだけが静かだった。
「成程。」
「成程ではない!貴様、いつから居た!」
瀬人が初めて叫んだ。
アテムは半泣きで瀬人を見る。
「終わりじゃなかったのか!?」
「俺に言うな。」
助産婦達は慣れた手付きで動く。
「まだ頑張ってくださいねー。」
「聞いてない!」
「今、発覚しましたので。」
「くっ…もはや…これまでか…。」
「これからですよ、王。」
瀬人は天を仰いだ。セトは静かに記録していた。
『王家、予測以上に拡張。』
もう1人います。その宣告から。アテムは一度、本気で瀬人を睨んだ。
「お前のせいだ!」
「半分は認める。」
だが逃げ道はない。第2ラウンドの開始である。
助産婦達は慣れていた。恐ろしいほど慣れていた。
「はい、もう少しですよー。」
「“もう少し”が、長い…!」
アテムは完全に力尽きかけていた。汗で髪が張り付いている。呼吸も乱れていた。
「瀬人…。」
「いる。」
「無理だ…。」
「無理ではない。」
「他人事だと、思ってるだろ!」
「思っていない。」
瀬人はずっと腕を握られている。逃げる素振りは1ミリもなかったし、手形が増えていったがそうさせていた。
アテムはもう半泣きだった。
「痛い…!」
「知っている。」
「終わらない…!」
「もう少しだ。」
助産婦が言う。
「王、上手ですよ!」
アテムは涙目で叫ぶ。
「上手でも痛いものは痛い!」
そして。もう一度。長いいきみ。そして、やっとのことで2人目の産声が上がった。
「女の子です!」
やっと、静寂が落ちた。そして、アテムは完全に動かなくなった。
「…終わったか…。」
「ああ。」
瀬人も珍しく疲れた顔をしていた。だがその視線は、すぐに赤子達へ向いた。
「双子…。」
アテムがぼんやり呟く。
助産婦が笑う。
「賑やかになりますね。」
セトはやはり、静かに記録していた。
『王家、急速拡張。』
瀬人が睨む。
「書くな。」
「記録です。」
セトは、真顔だった。
その後。アテムは、またも見事にボロボロになっていた。
「痛い…。」
第一声は安定のそれだった。
「当然だ。」
瀬人が即答する。
「動けない…。」
「動くな。」
しかも今回は双子で、消耗が段違いだった。眠れない。乳は張る。体は痛い。情緒も崩れる。
「瀬人…。」
「何だ。」
「何故、子は同時に泣くんだ…。」
「知らん。」
だが。やはりここで瀬人の真価が発揮された。とにかく当たりの男だった。
双子の抱っこは可能、同時調乳も可能、ソティス対応も可能、夜泣き耐久は高い、仕事は調整済み、睡眠管理も可能。
管理に関して、ほぼ無敵だった。
とにかく、かなり当たりだった。
夜中。女児が泣く。つられて男児も泣く。更につられてソティスも起きる。普通に地獄だった。
だが、瀬人は起きた。
「ソティス、まだ夜だ。」
「うぅ…。」
片腕に1人。もう片腕に1人。ソティスは背中に居る。
乳母達がざわついた。
「何故1人で処理出来るのですか…。」
「筋力だ。」
子の世話をして乳母に預けた後は、アテムを寝かせることもかなり優先事項だった。時には4人の寝かしつけをしていた。
「起きるな。眠れ。」
「だが泣いてる。」
「夜は俺がやる。」
アテムは涙目だった。
「お前、本当に当たりの男だ…。」
瀬人は少し黙った。
「今更言うな。」
当然、アテムは強制産休だった。
「本日の公務はありません。」
セトが淡々と言う。
「少しなら動ける。」
「駄目です。」
制度をガチガチに固めたセトも強かった。
「双子出産後です。」
「だが。」
「駄目です。」
しかし、制度改定済み。長期産休、完全代理決裁、育児専念期間、夜間連絡禁止。鉄壁だった。
アテムが呆然とする。
「休めと言われ続ける…。」
「休め。」
瀬人も即答だった。
更に。現世。海馬コーポレーション。
「社長が育休取得って本当ですか。」
「そうだ。」
世界がざわついた。
『海馬コーポレーション社長、育児休業取得』
株価は何故か上がった。
「何故上がる。」
瀬人が眉を顰める。
モクバが笑う。
「イメージ良いからじゃない?」
社員達の反応も良かった。
「社長が取るなら取りやすい。」
「神か…?」
「育休制度通したの社長だし。」
結果。海馬コーポレーションの、育休取得率は爆上がりした。
アテムは寝台で双子に囲まれていた。ソティスは瀬人の膝。
そして、瀬人は片手で冥界の書類処理をしていた。
アテムはぼんやり思った。何だこの男、凄くないか。そして小さく笑った。
「瀬人。」
「何だ。」
「お前を選んで良かった。」
瀬人は一瞬止まった。そして低く答える。
「当然だ。」
午後。冥界の王宮は珍しく静かだった。
双子は寝ている。ソティスも昼寝。乳母達も休憩中。アテムは寝台へ半分沈み込みながら、タブレットを眺めていた。
『ひよこクラ◯ 双子育児特集』
アテムは真剣である。
「…なるほど。」
小さく呟く。
『双子は同時に泣きます』
「やはりな。既に知ってるぜ…。」
『睡眠不足対策を』
「切実だな…。」
『上の子のケアも大切』
そこでアテムの表情が柔らかくなる。
「ソティス…。」
少し嬉しそうに呟いた。
そして次の記事を開く。
『兄妹で育つメリット』
アテムはじっと読んだ。
「…賑やかになりそうだ。」
その顔は、幸せそうだった。疲れているし、身体はまだ痛い。だが、未来を想像していた。
その時、扉が開いた。瀬人が戻ってきた。
「起きていたのか。」
「うん。」
瀬人は片腕に男児。もう片腕に女児。背中にソティス。皆眠っている。何故それで歩けるのか誰にも分からない。本人は筋力だと主張した。
アテムは自然に笑った。
「器用だな。」
「慣れだ。」
瀬人は赤子達を寝かせながら、ちらりとタブレットを見る。
「また読んでいるのか。」
「面白いぜ。」
「何がだ。」
「これからのことが沢山書いてある。」
アテムは少し嬉しそうに続ける。
「兄妹喧嘩をするらしい。」
「するだろうな。」
「一緒に遊ぶとか。」
「そうか。」
「誕生日も賑やからしい。」
瀬人は少し黙った。アテムはタブレットを見たまま言う。
「楽しみだ。」
その声があまりにも穏やかで。瀬人はほんの少し目を細めた。
瀬人も、既に準備はしていた。
実際、1人目の時点で、育児書、医学論文、発達心理学、栄養学、睡眠研究、教育理論。全部読み尽くしていた。そして今回は双子。更に増えていた。
机の上には『双子育児負荷分散』、『乳幼児睡眠周期』、『兄弟児相互作用』。
それを見たアテムが呆然とする。
「…お前、また読んでいるのか。」
「当然だ。」
「そこまでやるか…。」
瀬人は真顔で答える。
「環境は整えるべきだ。」
アテムは少し笑う。
「お前らしいな。」
瀬人は既にシミュレーション済みだった。誰が何時に寝るか、夜泣き分担も、ソティスとの時間の取り方も。勿論、双子の個別対応や、将来の教育、住環境の拡張、現世と冥界の往復。全部だ。
「部屋を改築させる。」
「またか?」
「成長速度を考慮すると必要だ。」
「早くないか?」
「早くない。」
その時。
扉が2度叩かれ、外から静かな声がした。
「失礼します。」
セトだった。
「教育係候補一覧も作成済みです。」
「セト。」
「兄妹間の社会性形成には…。」
「帰れ。」
セトは静かに続ける。
「なお、双子育児では親の休息確保も重要です。」
「珍しくまともだな。」
「そのため、夜間補助要員も増員しました。」
「仕事が早いな…。」
アテムは笑って、タブレットを胸へ抱えた。
「楽しみだな。」
瀬人は少し沈黙した後。低く答える。
「そうだな。」
双子は眠っている。ソティスも瀬人へ寄り掛かっている。部屋は静かだった。静かで。妙に幸せだった。
