24 王、推し活をする


海馬コーポレーションの休憩スペース。
昼食後のコーヒーを手に、アテムは社員たちの楽しげな談笑に耳を傾けていた。
「最近また推し活が忙しくてさ〜。」
「分かる!推しが尊いと生きる気力わくよね!」
推し活。
聞き慣れぬ響きに、アテムはふと目を瞬かせる。
席に戻るなり、タブレットで検索を開始した。
数分後、アテムは椅子に姿勢正しく腰を下ろし、静かに結論づける。
「推し活とは…“心を躍らせ、活力を得るための行い”なんだな。」
その定義に、王としての胸はときめいた。
「なんて素晴らしい文化だ。人の心を照らし、日々の糧となり、力になる…。」
アテムは深く頷く。
そして、次の瞬間にはもう決意していた。
「よし、俺も推し活をしよう。」
その表情は、戦場に向かう時よりも真剣だった。
アテムの“推し”が誰になるのか。
その答えは明白すぎるが、隣の部屋で書類整理をしている瀬人だけがまだ気付いていない。

──アテムは、推しを見つける旅に出ることにした(まだ出ていない)
瀬人が執務室で資料を確認していると、勢いよく扉が開いた。
「瀬人、推し活を始めようと思う。」
瀬人はペンの動きを止め、ゆっくりと顔を上げた。
やはりこの時点で既に嫌な予感しかしない。
「…推し、だと?」
「そうだ。推し活とは、心を躍らせ、日々の活力となり、精神に恩恵をもたらす素晴らしい文化だ。瀬人、お前にも良さを伝えるつもりだ。」
アテムは満面の笑みで語る。
瀬人はこめかみあたりを押さえながら、極めて冷静な声で返した。
「…その概念は、お前には適用されない。」
「何故だ。」
「お前は“推す側”ではなく“推される側”であることは明白だ。世界規模…ついでに冥界規模でも。現在進行形でな。」
アテムはぴくりと眉を僅かに上げ、反論する。
「俺は推し活がしたいんだ。人が誰かを尊び、心を燃やし、活力を得る…そんな美しい行いを、体験したい。」
「諦めろ。」
「断る。」
迷いなど一切ない。
むしろ王特有の、理不尽なまでの揺るがなさが宿っている。
瀬人は椅子に背を預け、深い溜息を吐いた。
A.R.E.S.が気配を消してフェードアウトするほどの面倒くささである。
アテムは腕を組み、真剣に思考を始めた。
「推しとは何か…。敬意、憧れ、愛着、魅了。視認するだけで心が熱を帯びるほどの存在。つまり、“強く胸を打つ者”だな。」
「お前自身が世界にとってそういう存在だと言っているだろう。」
しかし、瀬人の言葉は無視され、アテムは決意に満ちた瞳で言い切る。
「よし、推しを探す。」
瀬人は、椅子からずり落ちるとはこのことか、と言った気分になった。
「これから探す?待て、どこへ行く。」
「推しを見つける旅に出る。」
「社内で迷うな。」
「迷わない。」
その宣言だけは妙に自信満々だった。
こうしてアテムの“推し活探求”は、まだ一歩も踏み出していないのに、海馬コーポレーションに新しい火種を投下したのだった。



アテムは“推しとは何か”を理解すべく、社内フィールドワークに乗り出した。
A.R.E.S.が端末越しに淡々と補足する。
『社内アンケート:推し活経験者 83%』
社員たちは突然の“王の聞き込み”に慄きつつも、嬉々として語り出した。
「私はアイドルのライブが生命線です!銀テは大切に保管しています!」
「私は推しのアクスタをデスクに並べています!」
「私は毎朝推しのSNSをチェックしてから出社します!」
アテムは真剣に頷きながらメモを取った。
「…なるほど。推しとは、日常に活力を与える存在。そして推し活とは、“推しの象徴物を揃えて愛でる行為”…か。」
瀬人は近くでその説明を聞き、眉を微かに顰めた。
「最後の部分の解釈がおかしい。」
しかしアテムには届かない。
アテムの思考はすでに行動段階に入っていた。

帰宅後。
アテムは、通販ではなく自分で絵を描いて“アクリルスタンド化”できるソフトを発見し、海馬邸のプリンタとA.R.E.S.を動員して一気に作り上げた。
完成したアクスタを寝室に誇らしげに置く。
瀬人が帰宅して、それを見て固まった。
「…これは、何だ。」
「アクスタだ。推し活の入門だと聞いた。」
瀬人はアクスタを指で摘まみ、角度を変えて見つめる。
「…この、既視感のある、概念的な何かはもしや…。」
「俺が描いたトマトだ。」
王画伯の独特な画風で、トマトなのか太陽なのか不穏な球体なのかも判然としないアクスタが、寝室できらりと輝いていた。
「なぜこれを推す。」
「まずは形から入るべきだと学んだ。」
瀬人は額に手を当てる。
「形から入るなら、せめて人間を描け。いや、描いても同じか。」

翌日から、寝室は異変を見せ始めた。
・アテムのフォトブック
・◯クシィ増刊号
・海馬コーポレーションの広報パンフレット
・アテムの美ケア特集号
・アテムの潮干狩りの記事
「お前、いつの間に潮干狩りに行った?」
「記憶にない。」
「フェイクニュースか。A.R.E.S.、削除しておけ。」
『承知しました。』
瀬人がちらりと収集物に目をやる。
アテムが自然に入手できるものはどうしても“アテム本人が関わったもの”ばかりだった。
そして、その収集を推し活と思い込み、次々と寝室へ運び込んでいた。
気付けば寝室の一角はアテム自身の祭壇めいた様相を呈している。
瀬人は恐ろしく冷静な声で言った。
「…アテム、お前は誰を推している。」
「推し活をしている。」
「その対象を言え。」
アテムは神妙に考え込んだ。
「…推しとは、心の活力をもたらす存在。だが、これらのグッズを眺めても…。」
アテムは胸に手を当てて、訝しげに呟いた。
「…おかしい。活力が漲らない。」
瀬人は静かに言った。
「それは何も推していないからだ。せいぜいが“自分を推している”。」
アテムははっと目を瞠る。
「…なるほど。推しとは“他者”である可能性が高いのか。」
「当然だ。」
アテムは寝室に積まれた“自分グッズの山”を見渡し、静かに頷いた。
「…推しとは“他者”……。」
瀬人は半眼で頷く。
「遅い。」
アテムは気にせず胸に手を当て、真剣な声で宣言した。
「よし、他者を推す。」
ぽつりと言ったその声音に迷いは無い。
だが、その“本気”の方向性はやはり異常だった。

翌日。
アテムは社内に降臨し、“推し候補”を探し始めた。
だがアテムの基準は、あまりにも王だった。
社員に向ける瞳は真剣そのもの。
「君は小さな目標を日々積み重ねているのだな。素晴らしい。」
「昨日は落ち込んでいたが、今日は前を向いている。レジリエンスがある。」
褒め言葉があまりに高度で、同じ言葉でも“王に言われると人生の金言”になってしまうのだ。
そしてアテム自身は、とにかく悩んでいた。
「王たる者、民全てを慈しむのは当然。だが“推す”となると…。」
自分で言って自分で首を傾げている。
王ゆえの広すぎる“守備範囲”が、推し活の概念と相性が最悪だという、痛烈な事実に気付いてしまったのだ。
赤の瞳が天井を見上げ、そこで静かに結論を下す。
「だめだ、民はもれなく応援すべき対象になってしまう。全員推し…いや、これは推しではなく“施政”だ。」
社員は“民”ではないが、アテムにとっては“庇護するべき生命”に近い分類らしい。
瀬人は腰に手を当てて溜息を吐いた。
「だから言っただろう。お前に推し活は向かないと。」



しかしアテムは諦めなかった。
アテムは亀のゲーム屋に足を運び、真剣に相談した。
「…相棒。話がある。」
呼ばれた遊戯は駆け付け、アテムの深刻そうな表情を見て思わず姿勢を正した。
「ど、どうしたの?神官長が会議をすっぽかしたとか?」
「いや。推しが居ない。」
「……え?」
「推しが、居ないんだ。」
遊戯はカードから手を離した。数回瞬きをし、それから額を押さえた。
「…えーと…、推し活始めたの?」
「そのようなんだ。」
「“そのようなんだ”って何…?」
アテムは、寝室のトマトアクスタから自分グッズ祭壇の件、民を推し対象にしてしまう問題まで、端的に説明した。
遊戯は数秒の沈黙ののち、テーブルに突っ伏した。
「なぁにこれぇ……!?」
アテムは真顔で続ける。
「推し、とは…定義として“無条件に応援したくなる存在”だろ?だが、民は全員応援すべき対象で、つまり全員推しという事になり…すると概念が崩壊し…。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで推し活を国家運営みたいに語るの…?」
「違うのか?」
「違うよ!」
遊戯は両手をばたつかせ、どうにかアテムの暴走理論を止めようとした。
だが、アテムに“理屈”の扉を開かせてしまうと長い。
愛と理論のハイブリッドは強すぎるのだ。
「推しとは、難しい。」
「いや、普通はそんな難解な哲学みたいにはならないんだけど…。」
「なら相棒。推しを選ぶ基準を教えてくれないか。」
「えっ?ええっと…基準っていうか、感覚で…?」
「感覚…?つまり再現性の低い選出方法…?」
「ちょっと…推し活に再現性求めないでよ。統計も要らないからね。“好きだから推す”でいいんだよ。」
アテムはまた腕を組み、真剣な瞳で頷く。
「好きだから推す…好き…愛…。愛とは、理論立てて説明し難い感情で…。」
「だから理論に持ち込まないでってば。」
遊戯は半泣きで笑いながら叫んだ。
しかし、この会話は、疲れるが案外嫌いではなかった。
アテムが全力で“理解しようとしている”のが、なんだか微笑ましい。
この人は今、王としての生真面目さが全部推し活の邪魔しているのだ。そんなことを思った。
遊戯は、どうにか丸く収まる方法を提示する決心をした。
遊戯は「うーん…」と唸り、慎重に考え、“無難に済ませるための最も確実な選択肢”を提示した。
「…じゃあさ。海馬くん推せばいいんじゃないかな。身近だし、応援しやすいし…何よりアテム、苦労しないでしょ。」
アテムは目を見開いてきょとんとした。
「瀬人を…推す…?」
「うん。強いし、実力もあるし、推しとしては“安全牌”。何より、民じゃないでしょ?王としての立場からも、相手の立ち位置からも、他にもまぁ、色々と世界的にもね。」
アテムは静かに目を閉じ、深く考え、そして開いた瞳には確信が宿っていた。
「…なるほど。瀬人なら、推すに足る。」
「えっ、そんな堂々と…?」
「…いや。盲点だった。」
「盲点…?」
アテムは静かに拳を握った。
「うん。瀬人は勇ましく、才気に満ち、努力と誇りを抱いて前進する男。推されるに相応しい。よし。決めた。俺は瀬人を推す。」
全く迷いのない宣言だった。
遊戯は椅子にもたれ、膝から力が抜けるのを感じた。
「…海馬くん、どう反応するかなぁ…。」
「知的な好敵手だ。推しても問題は無い。」
「いや、全力で推すのは問題アリ…とは思うんだけど…。理屈で考えすぎなんだよ…。」
いつものように愛で押し通せばいいのに。
そう呟いた遊戯の声は、アテムには届かなかった。
アテムはすでに“推し活とは何か”を新たな理論体系に組み込み始めていたからだ。
王が愛と理論で構築する推し活。
その最初の対象は海馬瀬人だった。
遊戯は、波乱の予感しかしなかったが、やはりアテムのことは軽く瀬人に押し付けることにした。

その日の夜。
海馬邸のリビングで、アテムは凛と背筋を伸ばし、瀬人の前に立った。
「瀬人。」
「何だ。」
「お前を推すことにした。」
瀬人は一瞬だけ固まり、
その後、横目でアテムを見た。
「…遊戯に相談したな?」
「何故分かった。」
「お前が一番選ばなさそうな選択肢だからだ。」
アテムは誇らしく頷いた。
「流石は相棒だ。とにかく、俺は今日から、全力でお前を推す。」
「…やめろとは言わんが、嫌な予感しかしない。」
瀬人の予感は、大抵当たる。
この宣言が、後に海馬コーポレーションを巻き込む“推し活事件簿”の幕開けとなる。



アテムは、王のごとき(王だが)静謐な歩みで海馬コーポレーションを巡っていた。
目的はただ1つ。“推し”である瀬人の姿を収集するためである。
社内には、瀬人の映り込んだモニター、ポスター、技術マニュアル、PR素材、さらには社史のパネルに至るまで、瀬人の面影が飽和している。
社員たちは最初こそ驚いたが、アテムが「これは推し活だ」と説明すると、大半は妙に納得した。
「アテムさん、あの…これは昔のインタビュー映像ですが…。」
「助かる。瀬人の歩みを理解する助けとなる。」
アテムは慈しみ深い王の微笑で映像データを受け取る。
社員たちは“王が社長を推している”という不可思議な状況に戸惑いつつも、最終的には「まぁ、社長が推される分には問題ない」と判断したらしく、公式データは次々とアテムのもとへ届いた。

そして、その日の夜。
2人の寝室には、瀬人の凛とした姿が収まる額縁が静かに飾られていた。
アテムは芸術品でも扱うような慎ましい所作で配置を整え、満足げに頷く。
そこへ瀬人が入って来た。
「…アテム。1日でこれは、どういう状況だ?」
瀬人は、壁一面に並ぶ“自分”を凝視した。
表情はほぼ無だが、瞳の奥で「理解不能」という文字が点滅している。
「推し活だ。」
アテムは揺るぎない口調で答える。
「お前を推すと決めた以上、まずは環境づくりから始めなければな。愛も理論も、土台が大事だろ?」
「…いや。反論はないが、検証の飛躍が壮絶だな。」
瀬人は眉を微かに顰めた。
しかし否定はしない。
何故なら、アテムが本気で楽しげに飾り付けていることは見れば分かるからだ。
そこへ、机上のLOVE-OSが淡い光を灯す。
『推し活にはソリッドビジョンの活用が効果的。等身大の瀬人様像を投影してみませんか?』
「なるほど。理論的提案だ。」
「待て、アテム、理論的ではない。」
瀬人の制止より早く、アテムはソリッドビジョンを起動した。
淡い青の光が走り、まるでそこに立っているかのような瀬人の立体像が現れる。
現実の瀬人(本物)は、虚像(推されている像)を見て、さらに理解を失った。
「…アテム。これは、具体的にどういう感情で俺に見せている?」
「誇りと敬意と、微かな幸福だ」
真顔で言われ、瀬人は目を瞬かせた。
拒絶したい気持ちより、何故か胸の奥で静かに熱が灯る方が強い。理論では説明できない温度だ。
「…いや、文句はない。だが…理解は追いつかん。」
「安心しろ。俺は"何か"を理解している。」
「その“何か”を説明しろ。」
アテムは微笑み、首を左右に振る。
「説明すると理論が壊れる。」
「その理論の内容は?」
瀬人だけが無であり、アテムは凪のように穏やかだった。

翌日。
社員たちの推し活談義の輪の中。
休憩スペースでは、女性社員たちが盛んに語り合っていた。
「最近はね、推しの誕生日にケーキ買って祝うのが流行ってて。」
「へぇ、分かる。うちの推しはさぁ…。」
そこへ、王の歩みでアテムが合流した。
「推し活の話か?」
「えっ?ア、アテムさん。い、いえあの、その…!」
「気にするな。実は俺も推し活を始めたんだ。」
社員数名が固まる。
「…どなたを、推しているのですか?」
アテムは誇り高く胸に手を当て、静かに答えた。
「海馬瀬人だ。」
「「「え、社長!?」」」
休憩スペースが地震のように揺れた。
アテムは落ち着いた声で続ける。
「瀬人は推すに値する。努力、意志、戦略、精神、いずれも見事だ。推し活とは、心の灯を育てる行為。そう理解した。俺は理論的にあいつを推す。」
「り、理論的に…?」
アテムは穏やかな微笑で頷いた。
「愛と理論は両立する。」
社員たちは口々に「尊い」「すごい世界線に来てしまった」「社長のメンタル大丈夫かな」などざわめき、騒ぎを聞きつけた瀬人が遠くから顔を出す。
「アテム…今度はまた何を言った?」
「推し活の報告だ。」
「報告する必要はない。」
だが、その声色には、昨日と同じほんの微かな、嬉しさに似た揺らぎが混じっていた。

アテムが社員たちに堂々と「瀬人を推している」と公言した翌日。
瀬人は、静かにアテムの隣に座り、改めて問いを投げた。
「…ところでアテム。そもそも、お前は推し活で“活力を得る”ために始めたのだろう?本来の目的を、今一度確認したい。」
アテムは、胸に手を当て、ペンライトを掲げて頷いた。
「うん。心を躍らせ、活力を得る。それが目的だ。そして実際、瀬人を推すのは…非常に心が昂ぶる。」
その言葉には一切の誇張がなかった。
むしろ王の威厳と共に真実味が重く響き、瀬人の胸に微かな熱が差す。
「…そうか。ならば、目的は達成しているのか?」
「しかし、だ。」
アテムは、少しだけ視線を伏せた。
それは王としてではなく、1人の人としての儚い仕草だった。
「虚像を深く推した影響か…実物の瀬人と向き合うと、以前よりも格段に、胸が高鳴るんだ…。」
「…高鳴る?」
瀬人は腕を組み、考え込む。
理論派の瀬人にとって、アテムのこの“状態”は興味深くもあるが、放置できるものでもない。
アテムは続ける。
「虚像の瀬人は、推しとして完璧だった。だが、実物の瀬人は…さらに強烈だ。近くにいるだけで心がざわめく。これは推し活の副作用なのだろうか?」
「副作用…お前はまた…。」
瀬人は額を押さえた。
愛しいが、どうにも筋が通らない。
だが、アテムの視線は真剣だった。
どこか困っており、しかし嬉しそうでもある。
その混ざり合った表情は、瀬人にとって致命的に可愛い。
「…なるほど。つまり、お前は“実物の俺”の前だと緊張するようになったわけか。」
アテムは静かに肯定した。
「推しというのは恐ろしいな。」
「他に言い方はないのか。」
瀬人は深く息を吸って、決断するように言った。
「仕方ない。実物の俺との時間に“慣れる”しかあるまい。」
「慣れる…?」
「リハビリだ。推し活で昂ぶり過ぎた神経を、実物で調整する。」
瀬人は腕を取って、立ち上がる。
「行くぞ。今日は共に過ごす。まずは、昼食を共にするところからだ。」
アテムは瞬時に赤くなった。
耳まで、僅かに熱を含む。
「…瀬人と2人きりでか?」
「そういう反応になるからリハビリが必要なのだろう。」
瀬人は自覚していないが、声には優しさが満ちていた。
アテムの反応が愛しくてたまらないのだ。
アテムはしばらく考え、やがて瞳を上げた。
「…分かった。瀬人がそう言うなら。…推しと共に歩む。それもまた、推し活の一環かもしれないな。」
「違うが…まぁ、いい。」
瀬人は不器用に笑った。
一方でアテムは胸に手を当て、深呼吸をする。
推し活の結果、アテムは“推している相手の本物”に弱くなった。
その姿に、瀬人はどうしようもなく惹かれてしまう。
その日の昼食は、アテムが終始緊張しており、瀬人がさりげなく助けながら進んだ。
まるで恋人同士の初デートのように。
そう。2人は、愛と理論の道を、一歩ずつ踏みしめていた。
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