瀬人との生活は、意外にも驚くほど順調だった。
瀬人は仕事では鬼神の如く冷徹だが、ことアテムに対しては恐ろしいほどの適応力を見せた。アテムが理解できない現世の複雑な「大人の駆け引き」や、羞恥心で固まってしまうような場面でも、瀬人は決して置いてけぼりにせず、アテムの呼吸に合わせてペースを調整してくれる。
たまに過激なリードにアテムがパニックを起こしても、瀬人は「貴様の魂のキャパシティに合わせてやっている」と苦笑しつつ、決して無理強いはしない。おかげでアテムは、少しずつではあるが、海馬瀬人という男に、そして「恋人としての触れ合い」に慣れ始めていた。
……とはいえ、どれだけ経験を重ねても、瀬人の視線一つで顔を真っ赤にしてしまうような、その「初心さ」だけは一向に治る気配がなかったのだが。
そんなある日、久しぶりに遊戯や城之内たち「仲間たち」との交流の場が設けられた。
場所はもちろん、海馬邸の広大なラウンジ。
アテムは相変わらずの「お気に入りロゴ入りスウェット」に身を包み、ゲームのコントローラーを握りながら、実に間の抜けた顔でポテトチップスを頬張っていた。3000年の王の威厳はどこへやら、完璧なまでに「ニートの休日」を満喫している。
「あー、やっぱり仲間とのデュエルは落ち着く……」
そんなアテムの姿を見て、城之内がニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
「よおアテム!お前、最近ずっと海馬邸に引きこもってたよな。例の『海馬に奥さんが出来たら俺のニート生活が脅かされる問題』はどうなったんだよ?」
杏子も心配そうに顔を覗き込む。
「そうよ!海馬くんが誰かと結婚しちゃったら、アテム、ここから追い出されちゃうんじゃないかって、みんな心配してたのよ?」
仲間たちの問いかけに、アテムはポテチを飲み込み、胸を張ってニカっと笑った。
かつて戦場で見せたような、無邪気で誇らしげな笑顔だった。
「ああ、その件ならもう解決した!」
「えっ、解決って……誰か別の人が嫁に来たのか?」
仲間たちが息を呑む中、アテムは得意満面の表情でこう言い放った。
「違うな!俺には彼氏が出来たんだ。……海馬瀬人だ!」
ラウンジに、数秒間の静寂が訪れた。
……瀬人って、あの海馬のことだよな?
……付き合ってる?あの海馬瀬人と?
仲間たちの脳内には、昨今の瀬人の「アテムへの過保護ぶり」がフラッシュバックする。
しかし、彼らは知っているのだ。
アテムがこの「付き合う」という決断に至った動機が、「極上のニート生活を維持するための、不純かつ自己中心的な囲い込み作戦」であったという、あまりにも残念な裏側を。
「……あー、なるほどな」
城之内は引きつった笑顔で頭をかいた。
「……それは、まぁ、めでたい、のか……?いや、お前が幸せならいいんだけどよ……なんかこう、ツッコミどころが多すぎてな……」
杏子も複雑な顔でアテムの肩を叩く。
「……アテム、本当にそれが『純粋な愛』からの付き合いなら大歓迎なんだけど、その……生活とか、そういうのが目的じゃないわよね?」
皆の微妙な反応に、アテムはきょとんとして首を傾げる。
「純粋な愛?ああ、もちろん!海馬がいないと、もう俺はダメなんだ。……でも、生活もパフェも大切だぜ?」
結局、最後まで「ニートとしての本能」と「瀬人へのガチ恋」の境界線が曖昧なアテムの告白に、仲間たちは素直に「おめでとう!」と言っていいのか、それとも瀬人を不憫に思って「どんまい」と言うべきなのか、真剣に悩む羽目になるのだった。
「まあ、ヒモよりマシか」
「ヒモだと!?人聞きが悪いな、城之内くん!」
仲間たちの微妙な空気を察したアテムは、むっとしながらスウェットのポケットからスマホを取り出した。そして、おもむろに画面を提示する。そこには、海馬コーポレーションの社内ネットワークに直結した、アテム個人の「業務実績ダッシュボード」が表示されていた。
「見てくれ。俺は確かに13時に起きるが、14時から16時までの『コアタイム』には、きっちりとデバッグ業務に就いている。先月の俺のバグ発見効率は俺の前月比140%を記録し、システム部門が予測した損失リスクを約1億2000万円分、未然に回避した実績がこれだ!」
「お、おう……更に腕を上げた、ってことか?」
突然提示されたガチの「数字」と「論理的貢献度」に、城之内は圧倒されて一歩引いた。
頭の回転の速さをここで遺憾なく発揮しているが、この自慢も2度目である。
「それに、俺がブラックカードで買うものと言えば、新作のゲームソフトや、近所のカフェのパフェ、せいぜいこのスウェットくらいだ。高級外車や宝飾品をねだるような、悪質な居候とは根本的に違う。俺は己の労働の対価として、この極上の楽園を海馬から正当に勝ち取っているんだ!」
アテムが誇らしげに腕を組むと、遊戯たちは「確かに……」と納得せざるを得なかった。アテムの金銭感覚は、現世の物価ベースで言えば意外なほど庶民的で慎ましい。完全なヒモではなく、超高効率なパートタイム労働者という認識は共有された。
「それだけじゃない。見てくれこのスコアアタック……じゃない、なんだ?とにかく俺は富豪だ!」
海馬証券の口座のスコアは、もはや理解不能な額になっていた。
が、やはり問題はそこではない。
「……でもさ、アテム」
遊戯が苦笑しながら突っ込む。
「働くのが『超短時間』なのは変わらないし、海馬くんを捕まえた動機が『ダラダラ生活を死守するため』だったのは事実だよね?今後もダラダラするのをやめる気はなさそうだし……」
「当然だ!13時に起きる生活は、我が魂の根幹に関わるからな!」
悪びれもせず断言するアテムに、仲間たちは「やっぱり不純だし、海馬がちょっと可哀想かも……」と、複雑な視線を交わし合うのだった。
それから数日後のこと。
遊戯は、自身が企画している新作ゲームのプロトタイプを制作するため、技術協力を仰いでいる海馬コーポレーションの本社ビルを訪れていた。
打ち合わせを終え、連絡通路を歩いていると、偶然にも背後に黒服を引き連れた海馬瀬人本人が通りかかる。
「……遊戯か」
「あ、海馬くん!お疲れ様。いつもゲームの開発協力、ありがとう」
足を止めた海馬は、ふっと視線を鋭くした。
「フン、貴様のゲームへの執念は認めなくもない。……ところで、我が家に居座っているあのニートは、何か余計なことを口にしていなかっただろうな?」
アテムが仲間たちに「彼氏ができた」と得意げに言いふらしていた件が頭をよぎり、遊戯は少しタジタジになりながらも、思い切って尋ねてみた。
「あ、あはは……。うん、一応聞いたよ、二人のこと。……その、海馬くん。アテムから聞いてるかもしれないけど、彼、最初は自分の『ダラダラ生活を守るため』に海馬くんをターゲットにしてたみたいで……本当にごめんね?」
元相棒のあまりにも不純な動機を、身内として申し訳なさそうに謝る遊戯。
しかし、瀬人の反応は意外なものだった。彼はふっと鼻で笑うと、いつもの傲然たる態度で腕を組んだ。
「フン、そんな初期設定など、今さら我が社のセキュリティを脅かす火種にもならん」
「え……?知ってたの?」
「当然だ。あの引きこもりが、自分の怠惰な楽園を死守するために必死に策を練り、我が懐に飛び込もうとしていたことなど、最初から全て見抜いている」
瀬人の青い瞳に、冷徹な計算と、それ以上の深い愉悦が宿る。
「だが、あのマヌケなハニートラップの途中で、あいつ自身が仕掛けた罠の熱に当てられ、俺に盲目となって完全に堕ちたのも……また事実だ」
「あ、やっぱりそこまで把握してるんだ……」
遊戯は苦笑した。すべては現世の王の掌の上だったわけだ。
「いいか、遊戯。あのニートが我が家でどれほどパフェを食い荒らそうが、ゲームをポチろうが、海馬コーポレーションの総資産から見れば微々たる誤差。痛くも痒くもない」
「じゃあ、毎日『コアタイム』に働かせてるっていうのは……?」
遊戯の問いに、海馬はフッと唇の端を吊り上げた。
「ただの引きこもり対策だ。あいつほどの頭脳を、一日中ベッドの中で腐らせておくのは国家損失だからな。2時間だけでも外の空気を吸わせ、社会との接点を持たせるための……いわば、『飼育管理』だ」
言葉はどこまでも傲岸不遜だったが、その声のトーンには、あのアテムの我が儘なダラダラ生活すらも、自分の腕の中で丸ごと愛してやろうという、規格外の包容力が満ち溢れていた。
やっぱり、海馬くんって本当にイイ男なんだな……。アテムには勿体ないくらいに。
遊戯は心の中で確信し、どこかホッとした気持ちで「これからもアテムをよろしくね」と微笑むのだった。
常闇の国、冥界。
アテムが時折、数時間のコアタイムだけ姿を現すこの冷厳な王宮は、いまやアテムの現世での惚気を洗いざらい回収するセトの「情報収集場」と化していた。
「――それでな、海馬は口では『飼育管理』だなんて言うんだが、俺の疲れを見てすぐに抱きしめて寝かせてくれたんだ。現世の言葉で言う『彼氏』というのは、本当に素晴らしいものだな、セト!」
「はあ。左様でございますか」
デスクに積まれたパピルスを片付けながら、セトは完全に死んだ魚の目でアテムを見ていた。アテムが「彼氏が出来て浮かれている」のをいいことに、セトは巧みな相槌で彼のガードを完全に下げ、夜の進展から海馬コーポレーションの最新の動向まで、すべての情報を文字通り「洗いざらい」持って行っていた。
しかし、セトはただ惚気を聞かされるだけの男ではない。彼の冷徹な脳細胞は、すでに次の「冥界の利益」を弾き出していた。
「ところで、王」
セトはふっと、声のトーンを落としてアテムに近づいた。
「現代の子……海馬瀬人の持つ現世の『テクノロジー』や『ITインフラ』とやらを、この冥界の端末に直接繋ぐことはできないのですか?」
「え?繋ぐ?」
「ええ。もしそれが可能となれば、この退屈な冥界にいながらにして、現世のオンラインゲームとやら王が楽しむことも、あるいは現世のデータベースから新たな娯楽をダウンロードすることも思いのまま。王が現世にいる間でも、オンラインでいくらでも繋がっていられるのですよ」
「な、なんだと……!?冥界にいながらオンライン決闘やネット通販ができるというのか!?」
セトの巧みな「唆し」は、ニートたるアテムの急所を完璧に射抜いた。アテムにとって、冥界に通信環境が整うことは、現世の極上こ楽園をさらに拡張するこれ以上ない魅力的な提案だった。
その夜、海馬邸の主寝室。
アテムはベッドに入るなり、隣の瀬人の袖をぐいぐいと引っ張った。
「海馬!お前にどうしても……折り入ってお願いがあるんだ!」
「フン、なんだ。またあの恋愛雑誌のふざけたコンボでも試す気か?」
「違う!冥界の、俺の執務室の環境を……その、現世のITインフラとやらで『改造』してくれないか!」
瀬人はパソコンから視線を上げ、信じられないものを見る目でアテムを睨みつけた。
「貴様……。週のうち、ほんの1〜2時間しか冥界に行かないくせに、何を言っている。ニートの分際で冥界にまでゲーム環境を構築する気か?」
「ゲームだけじゃない!セトが言うには、通信が繋がれば、俺が現世にいる間も冥界とコンタクトが取れるし、何よりお前の会社の最新技術を冥界の王宮に導入できるんだ。……頼む、海馬!お前の超科学の力を見せてくれ!」
必死になって潤んだ瞳でお願いしてくるアテム。
瀬人はフンと鼻で笑った。
「……まぁいい。どうせ俺にとっても、あの冥界はいつでも行ける『庭』のようなものだ。我が社の次元ネットワークを冥界のインフラとして組み込むなど、手のついでに過ぎん」
口では冷たく突き放しつつも、アテムのおねだりを断る気は最初からなかった。むしろ、冥界すらも海馬コーポレーションの管轄下に置くというアイデアは、現世の王の独占欲を大いに刺激した。
数日後、アテムの次なる「冥界勤務」の日。
次元転送ドアから現れたのは、アテムだけでなく、白いコートを翻した海馬瀬人その人だった。
「王、それに現代の子……!本当に来られたのですか」
出迎えたセトの目が、一瞬にしてギラリと光る。
「フン、待たせたな古代の亡霊。我が社の次元通信衛星と、冥界の石版のオカルトをバイパスする。すぐに作業を終わらせるぞ」
瀬人は大型の海馬コーポレーション製アタッシュケースを開くと、中から現世の超科学デバイスを次々と取り出し、冥界の王宮の壁へと埋め込んでいった。アテムが横で「おお……光っている!」と呑気に眺めている間、瀬人は神速のタイピングで冥界と現世を繋ぐ「特設サーバー」を構築していく。
「よし、接続を確立した。これで暗号化された次元間ITインフラのセットアップは完了だ」
「感謝する」
セトは恭しく一礼した。
その口元には、完璧なクソデカ勝利の笑みが浮かんでいた。
二人が作業を終え、現世へと戻った直後のこと。
冥界の王宮に残された神官セトは、即座にその本性を現した。
彼は海馬が設置していった最先端の端末の前に座ると、現世のインターネット、そして海馬コーポレーションのデータベースへと光の速さでアクセスを開始した。
「……フハハハ!素晴らしい。現世の技術、情報、歴史、すべてがこの石版に流れ込んでくる!」
セトの目的は、アテムが夢見るような「オンラインゲーム」などという可愛いものではなかった。
彼は現世の高度なIT技術やインフラ構造、さらには防衛システムなどのデータを貪るように吸収し、それを冥界の「魔術」と融合させ始めた。
数日もしないうちに、冥界の王宮にはホログラムの警備システムが走り、死者の書はクラウド管理され、神官団のグループチャットが開設され、王宮の外壁は現世の超高層ビルばりのサイバーな「魔改造」を遂げていくことになる。
「先代様が現世で浮かれている間に、この冥界を、現世をも凌駕する最強のサイバー帝国へとアップデートして見せましょう……」
何も知らないアテムが、現世で「海馬の腕の中、サイコーだな……」とスウェット姿でパフェを食べている裏で、冥界はセトの手によって、取り返しのつかないレベルでハイテク化していくのだった。
「死者の管理だけが冥界の仕事だと思うな」
セトの「魔改造」は、単なるインフラのデジタル化に留まらなかった。
現世の膨大な歴史とデータベースを閲覧した彼は、そこに記された人類のあらゆる失敗と成功を冷徹に分析した。現世で使えそうな仕組みを、都合よく冥界にローカライズして次々と取り入れていったのだ。
まず着手したのは「教育」である。現世のカリキュラムをベースにした学校を設立し、次世代の「冥界サイバー技術者」を育成するシステムを構築。
さらに、エネルギー問題にも着手した。
現世のような化石燃料はこの国にはない。だが、ここには果てしない『土地』がある。そして何より、天災が絶対に起きない。ならば――
セトは現世の科学の粋を集めた「原子力発電所」を冥界の荒野に建設。魔術による防護結界と最新の海馬コーポレーション製システムを融合させ、理論上100%事故の起きない永久機関として稼働させた。
もちろん、何でもかんでも現世の真似をしたわけではない。
ふむ……この『SNS』というものは危険だな。承認欲求とやらで民の精神を汚染し、国を内側から崩壊させる。これは導入を制限、もしくは徹底的に検閲すべきだ
現世の「ネット社会の闇」を瞬時に見抜いたセトは、娯楽の取り入れ方にも極めて慎重だった。
その結果、冥界の民の間では「最新のタブレット端末を使って、静かに電子書籍を楽しむ」といった、非常に知的で治安の良い文化が定着。かつて薄暗かった冥界の図書館では、いまや死者たちがタブレットを片手に、現世の文学や学術書を穏やかに読みふける光景が広がっていた。
こうして冥界は、セトの手によって「暮らしやすく、事件や事故の極めて少ない、現世以上の超近未来ディストピア(理想郷)」へと急速に姿を変えていった。
――しかし。
この驚天動地のパラダイムシフトに、当の王は1ミリも気づいていなかった。
何しろアテムは、週にたった数時間しか冥界に滞在しない。しかも現世に戻れば「13時起床・スウェット・パフェ」のニート生活が待っているため、冥界に着くなり自分の私室と執務室を最短ルートで往復するだけ。窓の外に突如そびえ立ったサイバーな原発も、タブレットを操作する神官たちの姿も、上の空の彼の視界には全く入っていなかった。
「ふぅ、今日の分のバグチェックは終わりだ。セト、俺は現世へ戻るぜ。海馬が待ってるからな」
「はあ。どうぞお気をつけて」
パピルスを廃止し、最新の薄型モニタに向かってキーボードを叩きながら、セトは非常に雑にアテムを見送る。アテムは「うん!」と満足げに頷き、今日も嬉々として次元転送ドアを潜っていった。
その夜、海馬邸の主寝室。
「……フン、相変わらずあの神官は、恐ろしい男だな」
ベッドの上で、瀬人は手元のタブレットに表示された「冥界ネットワークの定期ログ」を眺めながら、思わずフッと唇の端を吊り上げた。
現世と繋がった冥界のインフラは、当然、最高管理者である海馬の端末からもモニタリングできるようになっている。画面に映し出されているのは、地震のない強みを活かした完璧な都市計画、完全に制御されたクリーンエネルギー、そして電子化された死者の書――。
セトの、あまりにも合理的で無駄のない国造りの手腕に、瀬人は奇妙な感心すら覚えていた。
そして、画面の端で、お気に入りのグレーのスウェットを着て、瀬人の腕の中にすっぽりと収まりながらスースーと間抜けな寝息を立てているアテムを見つめる。
あの古代の亡霊が、惚気るアテムをあれほど雑にあしらい、進んで俺の『伴侶』として現世に売り込んできた理由は、やはりこれだったか……
セトにとって、アテムは大切な先代王であると同時に、「現世の海馬瀬人から無限に技術と予算を引き出すための、最高の外交カード」だったのだ。アテムが現世で瀬人に溺れれば溺れるほど、冥界にはノーコストで最新の超科学が流れ込み、国が発展していく。
「お前は本当に、自分がどれほど都合よく使われているかも知らん、おめでたいニートだな、アテム」
瀬人は呆れ交じりの、けれどどうしようもなく愛おしげな苦笑を漏らすと、タブレットの電源を切った。
セトの企みも、冥界の魔改造も、すべては瀬人の想定の範囲内。何より、その対価としてこの愛くるしいライバルの心も身体も、すべて自分の手の中に収まっているのだ。現世の王にとっては、これ以上ないほどに割に合う取引だった。
瀬人は愛しい居候の腰を引き寄せ、その首筋に顔を埋めながら、今夜も静かに目を閉じるのだった。
