冥界御三度参り

社長が延々口説いてくる話。


1度目の訪問


アテムの好敵手は、とうとう冥界にまで辿り着いた。
これからまた、楽しい闘いの日々が始まる。そう思うとどうしても気分は高揚するものだ。
が、その好敵手は想像以上の攻撃を繰り出してきた。
パン!ガシン!
耳の横を何かが通り、背後で激しい音がした。
銃撃である。
「貴様、見果てぬ先まで続く俺達の闘いのロードはどうした?」
冥界の誰も、何が起こったのか分からなかっただろう。
アテムにも分からなかった。瀬人の手の中の銃を見るまでは。
銃撃までしているのだから、怒り狂って怒鳴っていてもおかしくはない。
しかし、声も表情も穏やかだった。得物以外は。
「そ、それは…事情があって。タイミングとか…。お前は、アメリカだったし…。」
罪悪感から、しどろもどろになりながら、アテムが答える。
銃口が真っ直ぐにアテムを捉える。
王の命は狙われているのだが、冥界の誰もそれに気付くことはない。
それどころか、音の原因を探しにいくらかは出て行ってしまった。
瀬人の指がトリガーにかかる。
「待て、落ち着け!俺はもう、死んでいるんだ!」
アテムが慌てて立ち上がる。
カチリ
と音がした。背筋が冷えたが、衝撃はない。
瀬人が口元に笑みを乗せる。
「フフ、空砲だ…。」
「は…はは……そうか。」
アテムは脱力して、座ることも忘れて立ち尽くした。
あの一撃は、好敵手としてのちょっとした挨拶であり、仕返しなのだろう。
そう思うことにして、甘んじて受け入れたアテムは、ほっと一息ついて人払いをした。
「海馬。よく、来てくれた。だが、それはしまってくれ。でないと何をしに来たのか分からないからな。」
「追ってきただけだ。現世であろうと冥界であろうと、俺はお前を追う。」
瀬人が告げる。
それは、謳うような、吹き抜ける風のような、ふわりとした声だった。
あまりの穏やかさに、アテムは一瞬、聞き入ってしまう。
返事が少し遅れた。
「…お、おう。」
それから何戦か決闘デュエルをして、現世の話をしたり、冥界の話をしたりしていた。
瀬人の様子は、カチコミに来たのが嘘のように穏やかだった。
「こうして、お前の声を、毎日聞いていたい。」
「…ん?どういう意味だ…?」
「単なる事実だ。会いたかった。」
穏やか、で済むのだろうか。
「会いたかったのは、俺もそうだが…。」
会いたかったのは事実だが、方向性が随分違う気がした。
「同じ空間にいるだけで、心が満たされていく。お前のために呼吸をしているような感覚だ。」
「は!?」
穏やかだが、明らかに様子がおかしい。やはり方向性が違う。
お前は誰だ。また偽物か。
そう訝しがるも、こんな所にまで来れるような人間は瀬人しかいない。
残念ながら間違いなくアテムの好敵手、海馬瀬人本人でしかないのだ。
「何を…。お前はそんなことを言う奴ではなかった筈だぜ?」
「その反抗する顔は可愛らしいな。存分に見せろ。」
「かっ……。」
ここは冥界。
冥界の人間ではない王の客人。
しかも王を王とも思っていないであろう瀬人を、他の者に相手をさせるわけにもいかない。
アテムに逃げ場はなかった。
何とか持ち堪えなければならない。
アテムの心は、混乱と戦慄でいっぱいだった。
どうしてこんなことを。これも仕返しの1つだろうか。
しかし、瀬人は微笑んだまま一歩近付く。アテムは思わず後ずさる。だが、瀬人は更に一歩詰めて、穏やかに微笑む。
「お前は、逃げることは出来ない。」
瀬人はその状況をしっかり把握しているのだろう。
「逃げるって…逃げは、しないが。」
本当は、逃げないのではなく、逃げられない。
それはアテムの逃げ場が、本当に無かったからだ。
冥界には仲間もいない。決闘デュエルも、ゲームも、現世の作戦も無力だ。
「現世でも冥界でも、俺はお前を追う。」
「ん?…うん。」
「いい子だ、アテム。また来る。」
いい子。そんな扱いをされたのはいつぶりだろうか。
少なくとも、目の前の男からそんな扱いをされた覚えはなかった。
顔を引き攣らせながら、アテムは答えた。
「あ…ああ、また、来るのか?」
来てほしくないわけではない。決闘デュエルも楽しかった。
だが、なぜかそれ以外で翻弄されている。
「お前が居る、来ない理由がないだろう。」
仕返しなら甘んじて受け入れることは出来た。
だが、そうすることの出来ない、意味の分からない包容力を見せつけられ、アテムは動揺するしかなかった。






2度目の訪問


淡い光の中、再び瀬人が現れる。
謎の包容力、穏やかでは済まない穏やかな言葉たち。最近の寝不足の原因である。
「また来たのか、海馬。」
瀬人は淡々と、しかし確実にアテムの心を揺さぶりにかかった。
「なぜ驚く?お前がここに居る。俺がここに来るのは当然だ。」
やはり、謡うような、吹き抜ける風のような穏やかさである。
この声が原因なのかもしれない。
心臓の鼓動が早まる。逃げたい気持ちと、なぜか心地良い声に戸惑う。
「それは…俺は…冥界に存在するから、仕方ないが…その…。」
その異様な様子は一体なんなんだ。
アテムは少し、首を傾げた。
「お前は俺に会う度に照れているのか。実に可愛らしい。」
アテムは慌てて顔を背け、反抗気味に答える。
「かわっ…別に…照れてもいない。そんなこと…。」
口を開けるも、瀬人の視線に言葉が止まる。
瀬人は穏やかに微笑み、ポケットから現世で見慣れた通信端末のようなものを取り出した。
「アテム、受け取れ。」
「…これは?」
「現世と冥界の、連絡用の端末だ。お前の声を毎日、俺に聞かせろ。」
「何故俺がそんなことを。」
「その反抗的な態度は、俺の為にあるのか?」
何故そうなる。
アテムは閉口した。
しかし、前回よりも少し距離を詰めて、瀬人は微笑む。
アテムは心臓が跳ね、顔が熱くなる。
「そ、そんなわけ、ないだろう。」
断じて違う。アテムは正常な反応を返した筈だった。
瀬人が軽く手を伸ばし、アテムの頬に触れた。体がぴくりと跳ねる。
「可愛いだけでは物足らんな。お前を深く知りたい。」
その青い瞳は真っ直ぐにアテムを射抜き、背後の黒い気配が、影のように静かに広がる。
「待て…お前、一体…。」
会わない内に何があったと言うのだろうか。
アメリカかぶれ。いや、絶対に違う。冥界へ乗り込む自我の強さが証明している、何かに染まるような男ではない。
だからこそこれは本心で、返す言葉がなかった。
言葉にならないアテムを他所に、瀬人は微笑を崩さない。
「心配は要らん。お前のペースに合わせて…と考えていたのだが、どうやら俺のペースになってしまったようだな。」
アテムはやはり反抗しようとするも、言葉が出ない。
全く、噛み合わない。
現世に居た時はまだマシだった。価値観は違えど、お互いに「闘争」と「闘争」であったから噛み合ってはいた。
だが、今は「穏やかで得体の知れない何か」と噛み合わせなければならない。
「そういう、問題では…。」
「やはりお前のペースがいいのか?だが安心しろ、俺に委ねればいい。」
この得体の知れない何かは、穏やかなのではなく、甘いのだ。
やっとアテムはそれに気付いた。
しかし、気付いた所で、甘さと、何とも言えない黒さの両方に挟まれている。
どうしても逃げられないことを理解させられてしまっただけだった。
瀬人は間髪入れずに続ける。
「お前の時間を奪うつもりはない。ただ、隣にいる時間を寄越せ。」
反発するつもりで口を開けるが、瀬人の重く、甘い言葉に全部潰されてしまう。
「あ、ああ。それは、別に…拒まないぜ。」
拒まないというよりは、状況として拒めない。
逃げようにも逃げ場がないのだ。
逃げられない、その事実が、アテムの心をじわじわと解かしていく。
「そうか。お前の息遣いを、ずっと近くで感じていたいものだ。」
瀬人が、間近に迫る。
「えっ?」
「お前が欲しい、今すぐ抱き締めさせろ。」
それは流石に拒むぜ。
アテムが答える間もなく、瀬人に抱きすくめられた。
「待っ…一体、どういうつもりだっ!」
言葉でも体でも抵抗してみるが、瀬人は悉く封じてくる。
「分からんのか。ならば何度でも囁こう。愛している。」
「ひっ…。」
ぞわぞわと、何かがアテムの体を駆け上っていった。
自分で吐いた愛の言葉が気に入らなかったのか、瀬人が思案する。
「愛している、などと言う言葉は、お前には軽すぎる…。」
現世なら、ほんの少し離れれば逃げられる距離だった。
今は違う。瀬人と自分だけ。逃げることは出来ない。
「は、離せ…海馬…。」
とりあえず腕から逃れようと身動ぐも、瀬人が腕に力を入れてしまうだけだった。
「動くな。目を逸らすな。俺を見ていろ。」
「あっ、ああ…。」
見なければ負けな気がして、アテムは瀬人を見上げた。
瀬人が満足そうに微笑む。
言葉が出なかった。
「この手がある限り、お前に触れることを躊躇わん。」
冥界の静寂に、瀬人の声だけが甘く、重く、空間を満たしていく。
優しさに浸食されたそれは、恐怖ではなく依存の入り口だった。






3度目の訪問


アテムはいつものように静かに佇んでいた。
心の奥では、今日も誰かが訪れるのでは、と少し気にしている自分に気付いていた。
だが、表情は変えずにいた。
瀬人の登場は静かだ。だが空気は前回以上に熱を帯びている。
姿が見えると、体が一瞬硬直する。
「アテム、会いに来たぞ。」
低く落ち着いた声。耳に届くと、胸が小さく跳ねた。
青い瞳が冴え、いつも通りの冷静さの奥に、ほんの少しだけ微笑みが見え隠れしている。
「お前、またか…。」
言葉に反して、声は少し弾んでしまうのに、アテムは気付かないふりをした。
淡々と口にしたつもりだったが、心臓の高鳴りは隠せない。
瀬人は一歩近付き、低く甘く囁く。やはりそれは、吹き抜ける風のようで、確信に満ちていた。
「お前が描く未来に、俺が居ない筈がないだろう。」
それと同時に、アテムを抱き締めた。
「お前を抱き締める度に、帰る場所を見つけた気分だ。」
前回、抵抗は無駄であると学習している。
アテムは、自身を抱く腕をそのままにさせておくことにした。
「そっ、そうか…。」
「いい場所だ。お前には隠れ場所がないがな。」
その声は甘く、しかし背後には黒い威圧感が仄かに漂う。
「お、俺は、隠れはしないぜ。」
声が少し震えるのをアテムは必死に隠した。
どうせ隠れる場所も逃げる場所もないのだ。
瀬人は視線をアテムに固定した。
「愛している。お前だけだ。」
そしていきなりの直球。
今日はまだその言葉を受ける心構えは出来ていなかった。
「愛している」に、アテムは目をパチパチさせた。
頭の中は真っ白になる。
言葉が出ない。
「お前は可愛らしい。こうして静かにしていると、常より心が揺れる。」
アテムは軽く首を振った。
「やめろ…そんなことを、言うな。」
瀬人の「甘い」に対して噛み合わせる「甘い」をアテムは持っていない。
しかし瀬人は止まらない。
「お前が大切だ。お前は俺にとって特別だ。世界にお前だけだ。」
トリプルバーストストリーム。
高火力な言葉が直接、アテムの心を破壊しにかかる。
「な…、なにを…。」
反抗しようとしたが、声が裏返る。
攻撃の手は緩められず、思考が追い付かない。
瀬人は顔を近付け、髪にそっと唇を触れさせる。
アテムは身を強張らせ、息を吸ったきり呼吸が止まった。
「無理に強がる必要はない。お前の弱さも愛おしい。お前が息をつく場所は俺が作ろう。」
甘い誘惑、冥界に逃げ場のないのをいいことに黒く迫る存在。
アテムが息を出来ないのは瀬人のせいなのだが、お互いに気付きもしない。
瀬人は更に距離を詰め、アテムの目を覗き込む。
「いいか、アテム。俺は世界中でお前だけを望む。」
その言葉と眼差しに、アテムは心の最後の防壁までも破壊されそうになった。
瀬人の口調は穏やかだが、言葉の攻撃力は圧倒的だった。
アテムは顔を後ろへ反らしたものの、腕の中である。逃げることはできない。
胸の奥が熱くなる。心臓が張り裂けそうだ。
反抗したい、でも声も出せない。
瀬人は距離なくしてしまうと、片腕でアテムを抱き、手を差し出した。
「拒めないだろう?俺は…こうしてお前に触れるだけで、幸福だ。」
やはり瀬人は止まらない。差し出した手を軽く肩に置き、囁くように言う。
「いや、答えは不要だ。分かっている。お前は俺の前では隠せない。それもまた、可愛らしい。」
アテムは熱くなった顔を両手で覆った。
「分かっているって、何が…。もう…やめろ…。」
やっとアテムが口を挟んだが、それも弱々しい。
瀬人はアテムを抱く腕の力を強めた。
「やめる筈がなかろう?俺はお前に、何よりも愛を注ぎたいのだからな。」
胸が熱くなる。やっと戻った呼吸は速くなる。反抗する力がどんどん抜けていく。
アテムは息を呑み、やがて小さく震える声で、諦めに似た吐息を漏らした。
「…も、もういい…。」
言葉が震える。顔が熱い。反抗心はもはや形だけ。
「お前を愛することは俺にとっては呼吸だ。止める気はない。」
瀬人の猛攻は止まない。
助けなど来る筈もない。しかしもう耐えきれない。
アテムは目を閉じて、大きく息を吸い込んだ。
「…分かった!分かったから、もう…言うな。それ以上は、言うな!」
瀬人は満足げに微笑み、アテムを両腕で抱き直した。
その瞬間、冥界の空気が甘く震え、アテムの心は完全に捕らえられてしまった。
逃げ場のない冥界で、アテムは身動きが取れない。
「お前…本気、なんだよな?」
やはり声が震える。瀬人は微笑み、アテムの手をそっと取って口付けた。
「不安か?俺の名を呼んでみるがいい。それだけで救ってやる。」
耳元で囁かれる言葉の重さと甘さに、アテムの心は揺さぶられるままだ。
反抗心は少しずつ消され、防壁は破壊されたばかり。
瞳が潤む。
「海馬、俺…俺は…お前のせいで…。」
言葉が詰まる。
アテムの目が泳ぐ。
「…お前のことを…ずっと、考えていたんだ。」
瀬人の微笑みが一層深くなる。
「言葉はいい。伝わっている。お前は俺の腕の中にいるのだからな。」
「いや、俺も、きちんと…その…。」
瀬人の目が真っ直ぐにアテムを射抜く。
その熱を受け止め、アテムはついに口を開いた。
「俺も…気に、なってて…。多分、好意を…。」
「とうとう言ったか。愛している、アテム。お前が甘えるのならば、俺は何度でも来よう。甘えないと言うのなら、甘やかしに来よう。」
光の中、アテムは瀬人の胸に顔を埋め、完全に降伏した。
2人だけの空間で、甘く、重く、しかし確かな愛が交わされる。
瀬人は微笑み、そっとアテムを抱き寄せる。軽い口付けを落とし、冥界の静寂を甘く満たした。





訪問は日常へ


瀬人が冥界に来る日は、風が止んでいるように見えた。
まるで、世界が息を潜めて迎えているようだ。
アテムは執務室で資料を整理していた。
遠くから、硬質な足音が近付く。もう誰か、など、考えるまでもない。
「…また来たんだな。」
声を上げるより早く、背後で瀬人が静かに息を吐いた。
「また、とは非情なものだ。毎回初めての気分なのだがな。」
「その言葉、何度聞いたと思っているんだ。」
「ならば、習慣として受け入れろ。」
アテムが僅かに笑い、瀬人はその笑みを見逃さない。
背中越しに視線が触れ合うような沈黙。
「今日も冥界は静かなものだな。」
「ここはそういう場所だ。現世のように喧騒に溢れてはいない。」
「だが、お前がいる限り、俺には充分騒がしい。」
瀬人の声は、やはり謳うような、吹き抜ける風のように穏やかで、しかしやけに熱を帯びていた。
アテムは書簡を閉じ、漸く振り返った。
瀬人の姿はいつもと変わらない。白のコート、無駄のない仕草。
ただ、その目だけが、以前よりもずっと柔らかかった。
「お前は、何をしにここへ来たんだ?」
「分かりきったことを。決まっているだろう。お前を見るためだ。」
「…それだけか?」
「それ以上の理由が必要なのか?」
言葉が、心臓に触れたようだった。アテムは少し目を伏せる。
現世にいた頃、こんな風に見詰められたことはなかった。対峙して、闘って、ぶつかり合うだけの関係だった。
今は、ただ見詰められている。そこに力はなく、命令もない。ただ『在る』ということを確かめるように。
「海馬…。何故、急にあんなに熱烈になったんだ?」
悶々と抱いていた疑問を口にする。
しかし、対する瀬人の返答はやはり噛み合っていない。
「不安になったのか?そう言う時は、お前の不安を俺に1つずつ預ければいい。」
いつもの甘い気配が漂い始めた。
「待て、そうじゃなくて、現世ではこんな…違ったじゃないか。」
慌てて元の雰囲気に戻して尋ねれば、瀬人は、なんだそんなことか、と言った反応を見せた。
「ここには、俺とお前しか居ない。惜しみなく愛を注げる。そう考えれば冥界も悪い場所ではない。」
つまり、やはりアテムには逃げ場がないと言うことだ。
だが、諦めならとっくに着いていた。
瀬人はアテムを見詰め、穏やかに、幸せそうに微笑んでいる。
「海馬。」
「なんだ。」
「お前が笑うと、冥界が少しだけ明るくなる気がするんだ。」
「それは、お前の目に映るからだろう。」
瀬人が一歩近づく。
距離を測る暇もなく、アテムの頬に指が触れた。
いつもより指先が冷たい。現世の温度を帯びた肌が、冥界の空気に溶けていく。
「こうして触れられていると、まるで夢のようだ。」
「夢だと思うのなら、夢から覚めなければいい。」
瀬人の声は低く、深く、夢を語るくせに酷く現実的だった。
アテムは苦笑した。
「現世の人間が、そんなことを言うのか。しかも、お前が。」
「現世、冥界。そのようなものは関係ない。それが夢であろうと、お前がいる場所が、俺の現実だ。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が静かに揺れた。
甘いとか、優しいとか、そんな言葉では括れない感情。
ただ「愛されている」と、はっきり理解させられてしまう。
アテムはそっと瀬人の手を取った。
「…俺は、暫く夢の中にいてもいいか?」
瀬人は微笑む。
「許可など不要だ。お前が望む以上、夢の方から抱き締めてやる。」
それは恐ろしい程の愛を帯びた言葉。
冥界の風がふたりを包む。
現世と冥界の境が溶けて、ただ『ふたり』という世界だけが残った。
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